立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年10月3日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

階級闘争の再来か、香港騒動の責任を取れ!

 香港騒動に誰かが責任を取らなければならない。民主化運動とかいっても、発端はそもそも住宅を買えず、将来に失望した若者たちの怒りだったのである。ならば、土地を買いだめして大儲けした連中に責任を取ってもらうのが妥当だろう。それはつまり土地を大量保有する資産家や地主から、土地を取り上げ、廉価な公営住宅を建設し、若者たちの住宅問題を解決するという発想である。

 「闘地主」という中国で流行っている有名なトランプゲームがある。「地主と闘う」というのは、共産党が農民と地主の階級闘争を煽り、土地を地主から取り上げ、農民に配分する、いわゆる「土地改革運動」に起源する。

 1950年中国が建国した当初、共産党政権は土地改革法を制定し、土地、役畜、農具、余分の穀物および農村に所有する余分の家屋を地主から没収し、耕作主義に基づき農民に配分するとの政策を打ち出した。表向きは富の再配分だが、内実は貧困層や弱者のルサンチマンと闘争心を煽るものであった。

 中国共産党のバイブルであるマルクス主義の唯物史観は、労働者階級と資本家階級の分断による階級闘争を中核としていた。マルクス主義の良き実践者である毛沢東も、農民に対し「地主・富農・中農・貧農」と細かく階層を設け、対立・分断を図った。しかし一方では、毛沢東がいざ政権を掌握し、被支配者から支配者に転じた途端に、今度は被支配者となった広義的人民(労働者階級)に対し、分断統治をはじめた。彼は「人民内部矛盾」という概念をでっち上げ、これを拡大解釈し、敵対勢力を「敵我矛盾」として位置付け、人民の力を動員して打倒に乗り出す手法を使った。文化大革命はまさにその好例である。

 話を戻そう。いまの香港人が民主化を求めるという意味では、中国共産党政権との対立が下手すると、「敵我矛盾」に転化してしまうから、それは大変危険である。すると、香港人民のために仮想敵を立て、新たな矛盾(対立)を作り出し、階級闘争の構図を仕立てる必要がある。この文脈からいくと、「闘地主」という結論にたどり着く。

 整理すると、こういうことである――。

 李嘉誠氏のような香港の資産家や企業家、地主たちが香港の土地を買いだめし、大儲けしている一方、不動産価格をどんどん押し上げ、ついに若者たちが逆立ちしてもうさぎの小屋すら買えない惨めな立場に置かれるようになった。その怒りがたまたま、逃亡犯条例という引き金で爆発し、今日の大騒動に至った。ゆえに、この騒動は民主化運動でもなければ、共産党政権の責任に起因するものでもない。土地をめぐる経済的格差に起源する騒動であって、「地主」が全責任を取らなければならないのである。「闘地主」が問題解決の出口となるわけだ。

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