立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年10月3日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 
建国70周年パレード(Xinhua/AFLO)

李嘉誠はなぜ中国の建国記念式典に参加しないのか?

 香港経済界のドン、屈指の富豪でもある李嘉誠氏はなんと、このたびの中国建国70周年記念式典の招待を辞退した。9月30日付けの香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストが報じた。

 李嘉誠氏はビジネスだけでなく、政治にも長けているいわゆる政商である。中国との関係はすこぶる良かった。しかし、2013年を境に彼は中国と距離を置き始めた。同年10月、李氏は建設中の上海陸家嘴東方匯経中心(OFC)を90億香港ドルで売却し、早々と中国撤退に取りかかった(参照:『香港大富豪の「中国撤退」がついに終盤戦へ』)。

 以降、李氏は中国本土や香港の資産を次々と処分し、ついに今年(2019年)前半、傘下の長江和記実業(CKハチソンホールディングス)が上海で所有していた最後の大型物件「高尚領域」(200億人民元規模)も売却し、中国撤退をほぼ完了させ、中国からフェードアウトしたのである(参照:『「中国撤退」はもはや時代の流れ』)。

 あのアメリカでさえ、中国にさんざん利用されてきたと、トランプ大統領が認めたように、世の中、大方が中国に利用されても、逆手に取って中国を利用する者はそう多くない。李氏は後者の1人であるといっても過言ではない。したたかというよりも、狡猾な戦略家だった。絶妙なタイミングで儲け逃げし、しかも逃げ切った彼はもはや中国の顔色を伺う必要はなくなった。

 せいぜいそこで黙っていればいいのだが、彼は黙っていない。このたびの香港デモに関して現地紙にでかでかと新聞広告を出しながら、デモに参加する若者に対して「寛大な態度で対処してほしい」と呼びかけた。それは中国当局の怒りを買わないはずがない。中国共産党中央政法委員会は名指しで、李氏が「犯罪を放任している」と非難した(9月14日付け香港明報新聞網)。

 政法委員会は、香港騒動、若者たちの怒りの根本的な原因は住宅価格の高騰や経済的格差の拡大と固定化にあるとし、「香港不動産価格の高騰で誰が大儲けしているのか、土地を買いだめしてきた李氏のような地上げ屋ではないか」と批判のトーンを上げた。

 土地で大儲けしておきながら、今さら善人を装って卑怯極まりない偽善者ではないか。人民日報も9月12日、評論記事を掲載し、香港の住宅問題が日増しに深刻化していると指摘した。記事は「これが、若者が将来に失望し、騒動に加わった原因だ」とし、不動産企業が土地の買いだめをやめるよう呼びかけ、「これこそが、香港の若者に対する寛大な態度である」と暗に李嘉誠氏を批判した。

 これだけバッシングを浴びた李氏もさすがに建国記念式典に出られるような状態ではないだろう。いずれにしても中国から逃げ切ったのだから、中国との関係はもうどうでもいいのだ。さらにいえば、米中の戦いで敗色濃厚となった中国とは一定の距離を置いたほうが都合がいいとでも、狡猾な李氏が考えたのかもしれない。

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