2024年4月19日(金)

立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年10月3日

地主から土地を取り上げよう!

 中国国内メディアは9月17日、香港の親中派最大政党、民主建港協進連盟(民建連)が香港政府に対して、公営住宅建設の加速を求め、「土地回収条例」の導入と活用を提言したと報道した。

 香港の大地主といえば、有名な4大富豪家族がいる――李兆基一族、郭得勝一族、鄭裕彤一族、そして李嘉誠一族。この4大家族(不動産大手4社)が合計940万平方メートル近くの土地(農地)を保有している。「土地回収条例」を発動すれば、この広大な農地を回収し、住宅用地にすることができるわけだ。

 早速9月25日、鄭氏傘下の香港新世界発展は28万平方メートルの農地を、公営住宅建設用に無償提供(寄贈)することを発表した。郭氏の新鴻基地産も「土地回収条例」に賛同し、協力する意向を表明した。

 「闘地主」が早速奏功した。ただ、「土地回収」というのだから、「没収」やら「闘争」やらそうした不穏な形だけは避けたい。地主の皆様のご理解と、ご協力が望ましく、土地の無償提供なら大いに歓迎されるべき申し出であろう。是非とも、建国記念式典に招請し、天安門の壇上に一席を用意するから、軍事パレードのご観覧でもゆっくりしていただきたいものだ。このような名誉ある待遇を辞退する李嘉誠氏はもしや、協力するつもりがないのか、それとも本当に高齢のために遠出の旅が無理だったのか、本人にしか分からないことだ。

 不平等を減らし、格差を解消するために、資産家の資産を没収し、再分配するのが社会主義・共産主義である。ただ、現下の世界では金融資産の流動性が高く、なかなか捕捉できない。であれば、土地という固定資産の非流動性に着目すれば、もっとも再分配の実効性が高い。その次にターゲットとなり得るのは企業所有形態・経済制度の多元化である。

 中国建国当初の産業再編史を見ても分かるように、土地改革に続いてやってきたのは企業の公私合営。「公私合営」とは、資本主義から社会主義への過渡的経済制度としてとられた国家資本主義の高級形態である。 これは個別企業の公私合営と全業種にわたる公私合営の2段階に分かれる。個別企業の公私合営は新中国成立直後、資本の国有化や、国家が私営企業に対して投資を行う等によって誕生した。この段階では国家が私営企業に幹部を派遣したり、また一部の企業の生産手段を占有したり、利益分配対象者の多元化などの現象が見られた。

 9月20日、浙江省杭州市は、電子商取引大手アリババ・グループや自動車メーカーの吉利ホールディングスなど同省内の重点民間企業100社に政府幹部を派遣し、常駐させる「政府事務代表」制度を発表した。9月23日付けのロイターは、「中国政府・共産党は、米中貿易戦争で国内経済が減速する中、民間企業への関与を強めており、国家の役割拡大に対する懸念が強まる可能性が高い」と背景を分析した。

 この政府幹部派遣制度は建国当初の公私合営、あるいはそれに近い形態へ移行するための布石・初期段階であるかどうか、さらにそれが本土にとどまらず香港にも浸透するかどうかは今後注目される。

 余談になるが、アリババといえば、創業者の馬雲(ジャック・マー)氏が9月10日に会長を退任したばかりだ。逃げるが勝ちという意味で、馬雲氏も李嘉誠氏も同じといえるかもしれない。

  
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