転職して4年ほどたったころ、三井物産の元上司から佐藤氏に連絡があった。「うちは今後ヘルスケアを強化しようと思っている。一緒にやらないか」との誘いに佐藤氏は復帰を決めた。現在はヘルスケア関連の投資を行う部署でミドルマネジメントに携わる。ミスミで学んだフレームワークを用いて、部署の戦略策定や部下育成に取り組む。
そして三井物産では、元社員との関係を強化することで協業機会の発掘を探るため、退職者とのつながりも強化している。若年退職した社員が集まる「元物産会」にはベンチャー経営者など約450人が登録、ビジネスネットワークが形成されているが、その集まりに副社長をはじめ経営幹部が出席しているのだ。
元物産会の幹事の一人で、現在はベンチャーキャピタリストの伊藤健吾氏によると、元物産会は約10年前に発足した。その数年後、三井物産に連携の協力を仰いだところ「けんもほろろ」、全く取り合ってもらえなかったという。
ところが数年前から、その姿勢が大きく変わった。三井物産の食堂でも交流会が開かれ、互いの近況報告をする関係にまでなった。同じく幹事で、コンサルティング会社を経営する橋本久茂氏は「外の意見を元物産の社員に聴こうという、それまでの物産とは違う姿勢の変化を感じた」と話す。三井物産の人事部が若年退職者に対し元物産会の案内チラシ配布に協力するなど、「復帰のドアは開いている」という姿勢を示している。
森永乳業に新たな風を吹き込む女性社員
夫の転勤がきっかけで退職する女性社員も少なくない。そういった社員が、退職後も他企業や別の分野で経験を積み、出戻るケースも出てきている。森永乳業では07年から「リターンジョブ制度」を開始。ここ3年で6人が再入社している。制度強化を進めていた15年春、人財部人財グループマネージャーの荒木久宜氏は、営業部の内勤にポストの空きがあり、人手が欲しいという声を耳にした。
荒木氏の頭に、一人の元社員が浮かんだ。09年に夫の転勤に伴い退社した長谷川真由美氏だ。すでに退職して6年が経過していたが、荒木氏は「在籍時に営業で抜群の成績を収め、当時の人事評価も高かった。彼女の力が欲しいとすぐに思い浮かんだ」という。長谷川氏に連絡し、制度を紹介した。
「私を覚えていて、そして必要としてくれることが嬉(うれ)しかった」。長谷川氏はチャレンジを決断した。彼女は退職後、損保代理店での内勤の仕事でスキルも磨いていた。比較的のんびりとした空気の漂う森永乳業のオフィスと異なり、代理店では営業担当とペアを組み、顧客の要望に応じ速やかに対応する必要がある。「スピード感が全然違う。仕事をどう効率的に進めるかを常に考えるようになった」。