Wedge REPORT

2019年10月17日

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 新たな価値を創造するための働き方が模索されているが、同時に人材の採用や運用の見直しも行われている。大手企業でも注目されはじめたのが他社に転職した元社員を「出戻り社員」として受け入れる企業が増えている。

 日立製作所では、経験者(キャリア)採用の対象に元社員も含めている。鉄道部門の最高人事責任者を務める山田哲也氏は、出戻り社員の強みについて「業務プロセスを理解しており、社内人脈もあるため業務の立ち上がりが早く、カルチャーに不適応となるリスクも低い。一度外へ出ている分、改善点のアイデアも出やすい。自社採用と中途採用のハイブリッドの強みを持つ」と語る。

 そう語る山田氏自身も「出戻り」社員だ。日立では労務など人事畑を歩み、51歳のときにGAP Japanの人事担当副社長へと転じた。その後、再び54歳で当時の日立総合経営研修所所長として復帰。GAP時代に日立での人事の常識が通用しなかった苦い経験などを、現在日立のグローバルリーダー教育に還元している。

 山田氏はGAP時代、ある店舗で、急遽(きゅうきょ)の人員不足に直面した。かつての関係をたどり、日立のグループ会社に応援を要請。「それをスムーズに調整するのが日立時代の人事の腕の見せ所だった」。話がまとまり一安心したところに、GAPの部下が止めに入った。「勝手に調整しないでください。必要な人間は外からオープンに採るのが基本です」。職種に応じて条件を調整し、個人を採用する。日本式の「付き合い」をベースにした動き方は、グローバルの観点からは非常識だった。

 経営悪化に苦しむ日立に戻った山田氏は、人事制度においてグローバルな視点を組み込む変革を求められ、研修プログラムの充実に勤(いそ)しんだ。日米での社員の行動様式の違いなどを織り込んだカリキュラムの設定や、海外法人雇用の外国人社員を対象に、現地のニーズや商習慣を踏まえ、日本の本社へ変革の働きかけを行う重要性を学ぶ研修も開設した。

 山田氏は「市場や雇用の在り方が変化する中、変化を起こそうとする会社にとって出戻り社員のニーズは高い。企業はどういったアウトプットを期待するのか、明確に定義をすることが必要。昔のつながりで戻った、という程度では効果は少ないだろう」と語る。

三井物産が退職者にアプローチする理由

 三井物産では、2012年からキャリア採用を強化し、その対象として元社員も受け入れてきた。「物産に新しい価値観や刺激を与えてもらいたい。そして物産には染まらず、世間の常識からずれている部分をどんどん指摘してほしい」と人材開発室長の古川智章氏は出戻り社員に期待する。

三井物産の佐藤浩一郎氏。一度転職して培ったマネジメント力を発揮する

 これまで10人以上が再入社したが、そのうちの一人がヘルスケア事業部で室長を務める佐藤浩一郎氏だ。佐藤氏は新卒で入社して約10年で米国子会社に出向。現地で米国流の経営を目の当たりにするうち、ある思いが浮かんできた。「また日本に戻り、一社員として働いて、マネジメント能力はいつ身につくのだろうか」。今後の成長カーブを考えたとき、不安に襲われた。

 そんなとき、若手のうちから経営幹部を意識したマネジメントを行う、金型などの部品を扱う機械商社ミスミの門を叩(たた)いた。インドの金型事業部署に配属され、現実を直視して戦略を描き、具体的なアクションを起こす力と、それを現場に落とし込む際の熱い心を徹底的に叩き込まれた。「ひたすら現場で実践を繰り返して、マネジメントに必要な素養を身につけることができた」と振り返る。

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