新たな価値を創造するための働き方が模索されているが、同時に人材の採用や運用の見直しも行われている。大手企業でも注目されはじめたのが、「縁」を生かした採用戦略である。他社に転職した元社員を「出戻り社員」として受け入れる企業が増えている。
クラレは退職者へのアプローチを通じ、出戻り社員獲得に向けて今まさに動き出そうとしている。その背景には離職者の増加がある。かつては1割にとどまっていた入社10年時点の離職率が、ここ数年は「新たな環境で挑戦したい」などの理由から2割を超えるようになっていた。人事部長の石川智章氏は、研修など時間をかけ育てた社員が流出することに危機感を抱いていた。
一方で石川氏は、「もし戻れるならまたクラレで働きたい、力を発揮したい」と現社員との懇親の場などで話す退職者が多いことも耳にしていた。特に、ベンチャーや外資系に転ずる社員が多いため、石川氏は「クラレをよく知っている上に、全く異なる場で培った企業文化や知識を持ち帰って活躍してもらいたい」という思いから、9月から元社員を対象とした「カムバック制度」導入を決定した。
また、出戻ることに対する心理的なハードルを下げる仕組みとして、退職者同士、また退職者と人事担当者が情報交換できるシステムも完成させる。まずは人事部門を中心に、社内で退職者とのつながりを多く持つ社員に協力してもらい、プライベートでの飲み会などで元社員の同期らにカムバック制度や退職者コミュニティーの存在を知らせる。
クラレと退職者のコミュニティー構築を推進した、ハッカズーク代表取締役の鈴木仁志氏は「最近、再雇用を見据えた企業から、退職者とのコミュニケーション構築に関する問い合わせが増加している」と語る。企業と退職者らの関係に変化が起きている。
このように、出戻り社員の受け入れは広がり、企業の期待も大きい。出戻り社員に関してエン・ジャパンが実施したアンケート(表)によると、受け入れ経験のある企業が再雇用した理由として、「即戦力を求めていた」「人となりが分かっているため安心」などの声が多く、退職後の企業での経験や、既存社員への刺激を期待する声も聞かれる。