2024年7月22日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年3月26日

法曹界の果たす役割

 薄熙来が中心的に進めてきた重慶市の改革は、中国の今後の国づくりの方向を考える上で重要な内容を含んでいる。特に制度建設に関わる問題が多いため、前出の賀衛方のような法学者や弁護士が積極的に発言を行ってきた。

 昨年の拙稿で紹介した李庄事件(「打黒」で被告となった1人の弁護人を務めた弁護士が偽証罪で逮捕された事件。証人を呼ぶこともなく裁判を終了させ、自白の強要もあったとされる)は「デュープロセス(法に基づく適正手続)」違反に関する論争を呼び、北海弁護団(*)設立の動きにもつながった。

 (*北海弁護団:広西チワン族自治区北海市において偽証罪の容疑で拘留された殺人容疑者の弁護人4人の無実を証明するために全国の弁護士20人あまりで組織された弁護団。弁護人を擁護する声がインターネット上などで高まり、つい先日、弁護人は全員釈放された)

 今年の全国人民代表大会(全人代)では、刑事訴訟法の改正案を採択したが、これにも弁護士や法学者たちの声が反映され、取り調べの可視化や弁護士の役割強化のほか、死刑判決を受けた被告人に最高裁判所で陳述機会を与えること、拷問など違法な取り調べで得た証言を裁判の証拠から除外することなどが明記された。

「打黒」進めた王立軍も「居住監視」の対象に……

 しかし、争点となっていた第73条の「居住監視」(法的に定められた拘留施設以外の場所で監視を行うこと)に関しては、「如何にしても通知できない場合を除き、居住監視後24時間以内に対象者の家族に通知しなければならない」と規定されたが、「国家安全に危害を加える犯罪、テロ犯罪」は例外とされた。「国家安全に危害を加える」はいかようにも解釈できるため、公安当局の判断によって秘密拘禁が可能になる。

 「居住監視」はこれまで主に人権活動家や汚職官僚の取調べに適用されてきた。皮肉なことに、「打黒」を進めてきた王立軍も現在、その対象になっている。

重慶市が行った弱者重視の政策 農民工への優遇策

 ところで、重慶市は「打黒唱紅」以外にも大掛かりな改革を行ってきた。

 私はなかでも弱者重視の経済政策に注目してきたのだが、それについてはどう評価すればよいのだろうか。薄熙来自身、全人代の記者会見で説明しているが、一般会計支出の50%を市民の生活に直接関連する事業に支出し、低中所得者向けの公共住宅を建設したほか、330万人の農民工(農村からの出稼ぎ労働者。都市では市民権を持たない)がすでに都市戸籍を取得したという。また、農村に残された農民工の子どもに卵や牛乳を支給するなど、特別な配慮を行っている。

 重慶市のGDP成長率は3年連続して全国3位以内に入った。最近、重慶を訪れた知人たちに話を聞くと、「昔なら物騒で夜は外を歩けないほどだったが、今では高層ビルが立ち並び、明るいオープンカフェが立ち並ぶおしゃれな都市になった」と話す者がいる一方で、「新しく建てられた公共住宅を見に行ったが空っぽで誰も入居していなかった」と言う者もいる。

「土地の都市化」より「人の都市化」に重点を

 これに関しては、3月16日付の『21世紀経済報道』に掲載されたシンガポール国立大学教授の鄭永年へのインタビュー記事「国家動員の発展モデルは持続可能性を考慮しなければならない」が参考になる。

 鄭永年は、重慶市のような西部地区は国有の重工業企業が比較的多く、一度に数百億元というような大規模な投資が行われることもあるが、こうした事業は短い期間ではGDPの成長を促しても、長期的にはリスクが大きいと分析する。つまり、政府主導の事業の割合が高いと、長期的に見て市場の活性化は抑制されるということだ。


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