2024年4月29日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年3月22日

 中国の全国人民代表大会(全人代=国会)が3月5~14日、北京で開かれた。今年秋の共産党大会での指導部交代を控えた重要な会議。温家宝首相は閉幕後、首相としての最後の記者会見で、政治体制改革の重要性を強く訴えた。

 翌15日、中国共産党は左派の重慶市共産党委員会書記、薄熙来氏を解任。次期最高指導部入りもささやかれていた薄氏は失脚した。

 中国指導部の意図は何か、秋の党大会に向けて権力闘争は激化するのか、政治体制改革はどうなるのか、考えてみたい。

文化大革命を彷彿とさせる大衆動員

 「現在の重慶市の共産党委員会と政府は事件を反省し、教訓をくみとらなければならない」。温首相は会見で、重慶市の王立軍副市長(3月15日解任)が米総領事館に駆け込んだ事件に関連し、強い口調で薄、王両氏を批判した。

 王氏は薄氏の側近だが、今年2月初め、兼任していた公安局長を解任された後、四川省成都市の米総領事館に駆け込んだ。王氏は何らかの不正容疑で中央の取り調べを受けたため、危機感を持ち、米国亡命を企てたと伝えられる。

 薄氏は2007年に重慶に赴任後、王氏を公安局長に抜擢し、「打黒」(暴力団一掃運動)を強力に推進し、「唱紅歌」(革命歌を歌う)運動など、かつての文化大革命を彷彿とさせる大衆動員で、大々的に反腐敗キャンペーンを展開した。

 王氏は、薄氏が遼寧省長時代に同省錦州市公安局長として暴力団一掃で実績を上げたのを見込まれ、重慶市に引っ張られた。

薄氏が進めた強引な摘発、冤罪も

 薄氏の左派的な手法は、多くの重慶市民から歓迎され、全国的にも注目を集めた。中国では経済が急成長する一方、汚職がはびこり、貧富の差が拡大、環境破壊も著しい。こうした状況の中で、毛沢東時代の「清く貧しい社会主義」をなつかしむ左派が復活し、「烏有之郷」(ユートピア)などのサイトで活発な議論を展開している。薄氏は解任後も、左派系サイトでは毛沢東並みの「英雄」だ。

 しかし、薄氏の暴力団一掃運動では、法律を無視した強引な捜査が行われ、多くの冤罪を生んでいるとの批判も出ていた。薄氏の着任後、摘発されたのは約5700人、うち逮捕者は5000人以上、約50人に死刑判決が下され、十数人は執行済み。

 改革志向の温首相を筆頭として現指導部は、左派薄氏のスタンドプレーを苦々しくみており、王氏の不正疑惑をきっかけに薄氏追い落としを図ったとみて間違いないだろう。王氏の米総領事館駆け込みは、想定外だったろうが、次期最高指導者と目される習近平国家副主席の訪米直前の事件であり、「米国に対し中国の体面を損なった」という新たな〝罪状〟も加わった。


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