「太子党」VS「共青団派」の単純化報道への疑問
薄氏は故薄一波副首相、習氏は故習仲勲副首相を父親に持つ。ともに「太子党」(二世政治家)であるため、日本のメディアは「薄氏失脚で習氏も不利な立場に陥り、最高指導者への道が危うくなるかもしれない」などと報じる。
また、メディアはよく、現在の権力構造を「太子党」と、胡錦濤国家主席(党総書記)や李克強副首相ら「共青団派」(共産党の青年組織、共産主義青年団出身者)の二項対立で分析する。
こうした報道ぶりには、首をかしげざるを得ない。
かつては、江沢民前国家主席(前党総書記)ら「上海閥」と胡氏ら「共青団派」の二項対立で論じていた。ほんとうにそうだったのか、誰も検証できていない。
単純化した分類は、血液型占いにも似て、あまりあてにならない。「太子党」ではあっても、みんなが定期的に会合を持つ党内派閥をつくっているわけではない。「太子党」同士の関係は、これまでの経歴の中で、個人的にどんな接点があったかによる。「太子党」でありながら共青団出身者もいる。
共青団出身者は人脈を形成しているが、これも絶対的とはいえない。次期指導部として、習近平氏がトップの国家主席(党総書記)、李克強氏が首相に内定している。現トップの胡氏は同じ共青団出身の李氏を後継者に引き上げなかった。
薄氏排除で手打ちも
今回の事件ではっきりしていることは、胡氏を中心とする現在の党政治局常務委員会(計9人)は集団指導の中で、左派の薄氏を切ったということ、そして改革志向の右派、温首相が薄批判の最先鋒という点だけだ。
常務委員のうち胡錦濤、温家宝、李克強氏ら3人をのぞく、習近平氏ら6人は重慶市を視察し、薄氏の手腕をたたえたことがあるが、「水に落ちた犬は打て」との魯迅の言葉通り、失脚した薄氏とは直ちに一線を画すだろう。
今のところ、薄氏失脚をきっかけに権力闘争が始まる兆しはない。薄氏切り捨てだけに終わるのか、権力闘争が激化するのか、今後の展開を見なければ判断は難しいが、現指導部は権力移行期を前に安定志向を強めているからこそ、不安定要因である薄氏を切ったとも読める。
中国指導部は集団指導を旨とする。個人プレーに走る薄氏を次期最高指導部のメンバーにすることはできないとの判断もあったに違いない。
温家宝首相の3時間会見 主張のルーツは趙紫陽氏
「経済発展に従って、富の分配の不公平、誠実さの欠如、汚職などの問題が起きている。解決するには、経済体制改革だけでなく政治体制改革も進めなければならない。特に党と国の指導制度の改革だ」
温首相は3時間にわたった記者会見で、今の社会矛盾が解決できなければ「文化大革命の悲劇が繰り返される可能性がある」「人口13億の大国という国情から出発して、漸進的に社会主義民主政治を築くべきだ。容易ではないが、改革を前進させなければならない」と政治体制改革の重要性を強調した。