2024年7月17日(水)

WEDGE REPORT

2019年10月24日

両国政府、そして日本の取り組みは

 ミャンマー政府は一貫してロヒンギャを国民として認めず、あくまでもバングラデシュからやってきた不法移民と見なし国籍を与えていない。政府は移動、就業、出生、結婚、教育、宗教の制限など様々な迫害を軍事政権発足以降数十年にわたり行ってきた。

 民主化の象徴であるアウン・サン・スーチー国家顧問に状況改善への期待が高まったものの、彼女には軍をコントロールする権利が憲法で認められていない。また大多数が仏教徒のミャンマー国民の間でも反ロヒンギャ感情が根強く、ロヒンギャをバングラデシュからの不法移民と見なし、自分たちの文化や土地が奪われると考えている。

 最近の調査では、大弾圧以降ロヒンギャが暮らしていた村は更地にされ、新たに軍や国境警備隊の施設、ミャンマー人のための住居が建設されたと報告されている。ミャンマー政府が本腰を入れてロヒンギャを帰還させる気があるのかは甚だ疑問である。

 一方の受け入れ国であるバングラデシュ政府も我慢強くロヒンギャを支援してきたが、それも限界にきている。アジア最貧国のひとつでもある同国は決して豊かではない。地元住民を差し置いてロヒンギャを積極的に支援することは出来ず多くの援助を国連、NGO、イスラム諸国に頼っている。政府はベンガル湾に浮かぶ無人島バシャンチャールに10万人を収容できる施設を建設し、ロヒンギャの移住を検討している。しかし同島は医療や教育へのアクセスが制限され、また頻発するサイクロンにより浸水、最悪の場合水没する可能性も有り安全が懸念されている。

 日本政府も河野前外務大臣がアウン・サン・スーチー国家顧問と会談し、早期の帰還に向けての協力を約束しており国連でのミャンマーへの非難決議に欧米諸国が賛成を表明する中、日本は全て棄権している。またロヒンギャという呼称も使わずあくまでラカイン州のイスラム教徒というミャンマーの立場に同調している。一方で2度にわたりロヒンギャ難民キャンプを視察しバングラデシュ政府に対し支援を強化する考えを示した。日本としては両親日国に対して独自の外交で解決への道を探り存在感をアピールしたいところだろうが、どちら側にも曖昧な日本の姿勢は決して歓迎はされているわけではない。私が出会ったあるロヒンギャの老女は「日本軍は昔、仏教徒と一緒に私たちロヒンギャをたくさん殺した。そして今でもミャンマーの味方をしている」と語った。

ロヒンギャの生活は変わらず、苛立ちは募るばかりだ

 大弾圧への公正な裁き、早期の帰還や母国での基本的な人権を求め続けていても、状況は一向に変わらずロヒンギャの苛立ちは募るばかりである。国連やNGOの援助でキャンプは整備されつつあるが、彼らの暮らしは貧しいままだ。トイレや炊事場は共同で電気はほとんど通っていない。火を起こすための薪を遠くの山まで取りに行かなければならない。

 またバングラデシュ政府は治安への不安から、キャンプ周辺での携帯電話のインフラを遮断した。自由に移動が出来ない彼らにとって唯一外の世界とつながる手段が絶たれたことにより疎外感や閉塞感が一層増している。行き場のないロヒンギャが過激な思想に陥ったりドラッグなどの犯罪行為に及ぶことも懸念される。

 最近では新たに流入したロヒンギャと過去にバングラデシュに逃れてきたロヒンギャ、地元住民との間に軋轢が生じてきており緊迫した状況が続いている。あらたに70万人ものロヒンギャが流入したことによる治安の悪化、物価の高騰、雇用の奪い合い、環境破壊といった問題がその背景にはある。

 歴史、宗教、文化、人種、国際関係など様々な要素が複雑に絡み合い、世界で最も迫害されている少数民族と言われているロヒンギャの行き先は未だ不透明である。

  
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