2024年7月16日(火)

Washington Files

2019年11月18日

(iStock.com/flySnow/Purestock)
  •  ウクライナ疑惑公聴会スタート、与野党が主張を展開
  • 焦点は弾劾ではなく、見栄え、体裁(optics)に
  • 「見返りquid pro quo」ではなく「収賄行為 bribery」
  • テレビ視聴者は伸び悩むも、弾劾支持者は増加

 トランプ大統領のウクライナ疑惑をめぐる公聴会が13日、米下院で正式にスタートした。全米向けにTV実況中継を通じ行われる今後の公聴会の真価は、来年大統領選控え与野党がいかに自陣の主張をアピールし、有権者の支持獲得につなげられるかにかかっている。

弾劾できなければ大統領が再選される、というプラカード(AP/AFLO)

 13日、初日の公聴会では、まず冒頭、アダム・シフ情報活動委員会委員長が「今後の審議でもし、大統領が権力濫用し、米国の選挙に外国からの介入を要請したことが明確になった場合、それをたんに見過ごすことになっても許されるのか、将来の大統領が同様行為を犯すことを当然視するのか、もしこれが弾劾に値しないとしたら、何なのかが問われることになる」として、国民が重大な課題に直面していることを強調した。

 続いてビル・テイラー駐ウクライナ代理大使、ジョージ・ケント国務次官補代理の2人が証言。

 テイラー氏によると、トランプ大統領がウクライナのゼリンスキー大統領との電話会談で対ウクライナ軍事援助の「見返り quid pro quo」としてバイデン元副大統領関連捜査を依頼した翌日の去る7月26日に、自分の部下がゴードン・ソンドランドEU担当大使とレストランで食事した際、大使の携帯電話口から漏れるトランプ氏の発言を傍で聞いた。その際、トランプ氏は「(バイデン)調査」に言及、大使とゼリンスキー大統領との協議の進展具合を尋ねた。ソンランド大使はその場で「ウクライナは(調査を)進める用意ができている」と応じたという。

 さらに同氏は「ゼリンスキーのためにトランプ大統領とのホワイトハウス会談設定を話し合うことと、対ウクライナ軍事援助凍結をテコに利用することは別問題のはずだ」として、大統領個人の言動にとくに憂慮したと改めて供述した。

 ケント氏は、大統領の顧問弁護士であるルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長がバイデン民主党大統領選候補のスキャンダル掘り出しに奔走していることに悩まされ続けたとして「米国では、政敵についての捜査着手のために他国に介入を依頼することはいかなる意味でも許されない」などと述べた。

 これに対し、共和党側は論点を絞って反論に出た。すなわち、①トランプ大統領は結果的に対ウクライナ軍事援助凍結を解除(9月11日)したのだから、民主党側が主張する「見返り」は成立せず、大統領が弾劾に値する罪を犯したことにはならない②トランプ大統領は電話会談後、ゼリンスキー大統領と会談したが、その際、「バイデン捜査」問題は話題に取り上げられなかった③テイラー、ケント両証人とも、トランプ大統領と直接話し合ったこともなく、間接情報に基づく証言であり、信用性に欠ける―というものだ。

 ジョン・ラドクリフ議員(共和)はこの点について「大統領は実際に政敵に対するいかなる捜査にも着手しなかった。そうする必要もなかった」と民主党側に反論した。

 米大統領が在任中に 弾劾の対象とされるのは、第17代アンドリュー・ジョンソン、第37代リチャード・ニクソン、第42代ビル・クリントン各大統領以来4人目だが、今回の最大の特徴は、次期大統領選と議会選挙を1年後に控え、公聴会討議内容そのものより、討議を通じ与野党の攻防とその姿勢が実況中継のTV画面やインターネット動画を通じ、いかに有権者向けにアピールできるか、という点だ。

 もしトランプ大統領を追及する民主党側が、年内にも予想される下院本会議の審議で過半数で弾劾(起訴)に追い込んだとしても、有権者に対する十分納得のいく説明を欠き、上院本会議での審決(判決)で罷免が否定された場合、来年選挙で手痛いしっぺ返しを食らう結果になりかねない。

 その逆に、下院本会議採決に先立ち公聴会での内容の濃い討議を通じ、多くの国民の目から見て大統領の犯罪性が揺るぎないものであるとの印象作りに成功した場合は、上院での罷免に及ばなかったとしても、来年11月選挙での民主党への支持が高まることになる。対照的に、共和党は国民の批判を浴び、結果的に上下両院選挙での敗退のみならず、大統領選でもトランプ再選のシナリオが崩される事態を迎える。

 このため今回の弾劾討議では、両党陣営の選挙ストラテジストたちの間でも、「optics」の重要性が繰り返し指摘されるようになってきた。「optics」とは「見栄え」「体裁」といった意味だ。つまり、弾劾審議の本筋と同等に、実況中継される公聴会での与野党の攻防ぶりが有権者側から見ていかに受け止められるかが、重要なカギとなるというわけだ。


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