2024年12月6日(金)

Washington Files

2019年10月21日

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 トランプ大統領の常軌を逸した発言や行動が繰り返されるにつれて、アメリカの精神分析医や専門家たちの間で、その「症状」診断や大統領執務上の「適否」をめぐる真剣な論議が高まっている。来年大統領選挙に向けて、さらに国民的関心が広がる可能性もある。

 トランプ氏の「精神状態mental state」については、2016年11月の大統領選当時から、米マスコミの一部で不安視する声があったが、正式就任以来、異常ともいえるツイッター発信や言動が繰り返されるにつれて、精神分析医や学者、評論家などを巻き込んだ真面目で真剣な議論が展開されてきた。

 そして最近、とくに大きな話題を集めたのが、ケラヤン・コンウェー大統領顧問の夫で歯に衣着せぬアンチ・トランプ論客として知られるジョージ・コンウェイー弁護士(56)が、今月3日、米有力雑誌「アトランティック」に寄稿した「執務不適格 Unfit for Office」と題する長文の論考だった。

 コンウェー氏はハーバード大学卒業後、エール大学院で博士号を(法律)取得して法曹界に入り、共和党系の敏腕弁護士として活躍、トランプ政権発足後、一時は司法次官(民事担当)候補としても有力視された。しかし、トランプ氏の人格や破天荒な言動に幻滅し、その後は、一貫して政権が打ち出す内外政策の矛盾や欠陥を厳しく糾弾してきた。

 「ナルシシズム(自己溺愛)状態にあるトランプは、憲法が求める大統領職務の遂行が不能になっている」との書き出しで始まるコンウェー論文は、「風向きを知るのに気象士に頼る必要がないのと同様、過去3年近くにおよぶホワイトハウスにおける脱線したアブノーマルな行状 erratic and abnormal behavior を見れば、精神科のプロフェッショナルでなくてもトランプ大統領がきわめて深刻な状況にあることがわかる」との前提に立って要旨、以下のような点を指摘した:

 「ホワイトハウス首席補佐官だったジョン・ケリー氏が在任当時、大統領のことを『unhinged 錯乱状態』『off the rails 常軌逸脱』と側近らに漏らしたように、過去歴代大統領を振り返ってみても、トランプほどメンタルな安定性と現実世界とのつながりをめぐる論議を巻き起こした大統領はおらず、ロッド・ローゼンシュタイン司法次官も辞任前に一時は、精神不安定 mental instability を含む『職務遂行不能』を理由とする大統領罷免を規定した憲法修正第25条の適用について、各閣僚との協議の可能性に言及したほどだった」

 「昨年9月には、『米政府高官』が匿名でニューヨーク・タイムズ紙に暴露した通り、政権内の閣僚の間でも修正第25条適用に関する話題が持ち上がったが、誰もそれが憲法上の危機に発展することを望まなかった、と伝えられた。つい最近では、NBCテレビが事情通の話として、『ウクライナ疑惑をめぐる大統領弾劾の動きが活発化するにつれて、大統領がますます異常な対応に出て収拾つかなくなる可能性についてホワイトハウス内で警鐘を鳴らす動きが出ている』と報じている。その中には『大統領のムードはその時々のメディ報道の見出し、ツイート次第でころころ変わり、次に何を言い出すか誰にもわからない。公式スケジュールもいきなり窓の外に投げ出してしまうようなとんでもない状態だ』といった嘆き節も含まれる」

 「しかし、大統領はたんに支離滅裂なだけではない。真実を語る能力に一貫して欠けている。彼は連日のようにホワイトハウス内でも平気でウソをついて回るため、某元高官も語っているように、今ではスタッフたちもそれに慣れ切り、大統領が何を言っても真に受けなくなっている。解任されたアンソニー・スカラムーチ元ホワイトハウス広報局長も『彼がうそつき liar かと言われれば、まさにその通りだ』と認めている」

 「問題は、そんな彼が果たして大統領としての職務を遂行できるかだが、合衆国憲法は第2条第3項で『大統領は法を忠実に順守する義務がある』と規定し、同条第1項では『大統領職の忠実な遂行を厳粛に宣誓する』とうたっている。これはすなわち、大統領たる者は自分のことは後にして国を最優先に仕事をすべきことを意味しており、すでにこの点で、彼は大統領として『不適格』と言わざるを得ない」


新着記事

»もっと見る