Washington Files

2019年9月24日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 本来鎮痛薬として処方されてきた麻薬性オピオイドopioidがアメリカ中に蔓延、その濫用による死者数が初めて交通事故死を上回り1日平均130人以上という深刻な社会問題となっている。そしてその背景にあるのが、日常生活上の肩こり、腰痛などの訴えだけにとどまらず、し烈な競争社会ゆえの「不安とストレス」に起因する心因性麻薬依存症だ。

 CNNテレビは去る8月28日に放映した“オピオイド危機”関連番組の中で、連邦保健・人的サービス省(HHS)がまとめた公式データとして「鎮痛薬オピオイドの濫用により2017年1年間に170万人が精神障害を引き起こし、そのうち4万7000人が死亡した」と報じた。さらに、同年のオピオイド乱用者は1140万人に達したという。

(Moussa81/gettyimages)

 これまで慢性の痛み、手術後の痛み、抗がん剤治療による痛みなどの際に投与される鎮痛薬としては、モルヒネ、フェンタニルFentanylなどが広く知られ、わが国でも麻酔手術の際にも投与されてきた。本来、鎮痛効果のある麻薬性化合物の総称がオピオイドであり、「オピウム(アヘン)類縁物」を意味する。ただ以前までは、簡単に入手できる「常備薬」ではなく、主として専門医や病院での使用が一般的だった。

 ところが、1995年、米薬品メーカー「パーデュー・ファーマPurdue Pharma」社が、オキシコンティンOxiContinと呼ばれるオピオイド系の鎮痛剤を開発、医師の処方箋があればだれでも近くの薬局でいつでも購入できるようになって以来、常用者が全米に一気に広がり始めた。同社が「より安全で、常習性がより低い(safer, less addictive)」ことをPRのうたい文句に掲げ、医師や病院、スーパー内の薬局に対しても猛烈な販売攻勢をかけたためだった。

 その後、専門家や学者の間から、実態とは異なる同社のキャッチ・フレーズに対する異議申し立てがあいつぎ、2007年5月には、本格調査に乗り出した連邦食品医薬局(FDA)がその違法性を摘発、結局、会社最高幹部が容疑を認め、6億3400万ドルの罰金を支払う騒ぎとなった。

 ここでいったん、“オピオイド・ブーム”は鎮静化したかに見えたが、2010年には、先行したPurdue Pharma社製剤にさらに改良を加えた同種の鎮痛剤が他社でも開発され、これをFDAが認可したことから、再び多くの薬品メーカーを巻き込んで大量生産に拍車がかかった。

 とくに後発組ながら、SpecGx, Par Pharmaceutical, Actavisの3社はオピオイド生産量で Purdue Pharma社を一気に追い越し、2006~2012年にかけての全米生産統計で見た場合、総量(760億錠)の8割近くを3社が占めるに至ったという。

 この間、大々的なTVコマーシャルなどに踊らされて購入し始めた一般市民たちの間から副作用、常習性の危険、服用による異常行動などのトラブルの訴えがあいついだのを受けて、連邦麻薬取締局(DEA)が15か月にわたる大がかりなおとり捜査に乗り出し、ついに20015年5月、医師22人をはじめ薬剤師、メーカー関係者ら含め280人が逮捕される大スキャンダルにまで発展している。

 しかし、その後も、中毒患者や過剰摂取による死者数が増え続けたため、トランプ政権はようやく2017年11月、オピオイド危機に対する「非常事態宣言」を発令、処方箋を乱発した医師や、闇ルートの販売業者の摘発、厳罰措置を講じ始めた。

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