はるけき祖国の政治にどう向き合うか―トランプ米共和党政権とネタニヤフ・イスラエル政権の蜜月関係が進む中、530万人の在米ユダヤ人社会がその対応巡り、伝統的支持派と、リベラル派との間で揺れ動いている。
対立を改めて浮き彫りにしたのが8月15日、イスラエル政府による、米国のイルハン・オマール、ラシーダ・タリーブ両女性連邦下院議員(いずれも民主党)に対する入国拒否決定だった。
イスラエルは国内法の規定に基づき、これまで反イスラエル的思想、行動が疑われる外国人の入国をそのつど拒否してきた。その中には、アメリカの大学教授、キリスト教指導者、ジャーナリストなども含まれる。しかし、現職連邦議員の入国要請を却下したのは前代未聞だ。
対象になったのは、ソマリア難民出身のオマール、パレスチナ系のタリーブ女史の二人で、当初の入国目的は現在イスラエル占領下にあるパレスチナ自治区訪問だった。しかし、イスラエル政府は、反イスラエル運動家として知られる二人が滞在中に不穏な言動に出ることを警戒、ネタニヤフ首相自らも「(入国は)イスラエルの正当性を否定しかねない」と拒否理由を説明した。
その後、イスラエル政府はいったん、タリーブ女史については「高齢の祖母慰問目的」との事前説明に理解を示し、訪問地限定を前提に入国を認めると発表したが、今度は同女史が「自由と民主主義を認めない国には行かない」と出国を見合わせたままとなっており、混乱が続いている。
しかし、問題を一層複雑化させたのは、トランプ大統領だった。
トランプ氏は、両議員がイスラエル訪問の準備を始めた当初から、ツイートなどを通じ「もし二人の入国を認めたら、イスラエルは大きな弱点をさらすことになる。彼女たちはイスラエルそしてユダヤ民族すべてを憎んでいる」と内政干渉とも受け取られない発言をし、イスラエル政府が入国拒否を発表した後も「そもそも二人を入れることなど、自分には想像できない」とコメントした。
同日付けワシントンポスト紙が「ホワイトハウス当局者」の話として伝えたところによると、イスラエル政府による今回の措置については、トランプ大統領が直接、「入国禁止」の圧力をネタニヤフ首相にかけたことは否定した。しかし、「イスラエル政府が入国受け入れの意向」との事前の報道を受け、補佐官がこれとは異なる大統領の見解を同国政府に伝えたという。
実際に駐米イスラエル大使はそれ以前から「米議会および、両国同盟関係に敬意を表するため、二人は入国が認められるだろう」と発言しており、同国政府としても事を荒立てることなく、なるべく平穏に処理したい意向だったとみられる。それだけに、トランプ大統領の強い意思が働いた結果、イスラエル政府が方針転換を迫られたことは間違いない。
いずれにしても、かねてからのイスラエル批判派とはいえ、あくまで民主主義制度の下で選出されたアメリカの国会議員の入国を拒否するのは、北朝鮮など一部の全体主義国家がとって来た措置以外にあまり前例がなく、「民主主義国家」を自任するイスラエルとしても史上初めてという異例の事態だ。
それだけに今回の問題は、ユダヤ人組織が多大な影響力を持つとされる米議会、メディア界でも大きな論議の的となった。