2024年4月27日(土)

Washington Files

2019年9月24日

南北戦争から続く、麻薬と戦争のつながり

 たんなる鎮痛薬だったオピオイド問題が、ここまで深刻化した原因として、以下のような点が指摘されている:

  1. オピオイドはそれ自体の服用に違法性はなく、偏頭痛、肩こり、腰痛、膝の痛みなどの治療に有効である一方、マリフアナやLSDなどのような陶酔感、恍惚状態をもたらす効果もあり、依存性が強まる性質がある
  2. 医師が外来患者の求めに応じ、気軽に処方箋を出す傾向があり、通院回数が増えるたびに常習化が進み、服用量の増加に伴う副作用やトラブルに発展する
  3. オピオイド・メーカーの営業担当者が、病院、開業医、薬局の薬剤師に接待攻勢をかけ、販路拡張にしのぎを削っている
  4. 依存症が高じた患者の中には、医師から処方された容量だけでは我慢できず、ネット情報などを通じ、ストックに余裕のある第3者からの転売に手を染めるケースも増えている

 もともと、アメリカ人と麻薬とのかかわりには、長い歴史がある。古くは南北戦争以来、とくに戦場における兵士たちの負傷治療、下痢止め、士気高揚、不安解消などのために麻薬が多用されてきたことが広く知られている。

 南北戦争ではモルヒネ、第一次大戦ではコカイン、第二次大戦ではアンフェタミン、ベトナム戦争では俗名“スピード”と呼ばれたデキストロアンフェタミン、マリファナ、LSD,さらに今世紀に入り、イラク、アフガニスタンなどの戦場ではOxiContineに代表されるオピオイドが兵士たちに処方されてきた。

 そして、海外駐留時にオピオイド依存症が高じ、帰還後も、中毒患者となり毎日の生活に悪戦苦闘する退役軍人も少なくない。

 しかし、それ以上に問題なのは、本来、鎮痛治癒目的で開発されたオピオイドが、ベトナム戦争当時、現状不満や精神的苦痛からの一時的逃避目的に流行したマリファナ、LSDのように、今日、貧困や激烈な競争社会に起因するストレス、不安解消目的で広く利用されている事実だ。

 米国在住の精神科医約5万人が加盟する「全米精神科医協会American Psychiatric Association」(APA)が昨年4月、成人1004人を対象に実施したアンケート調査によると、回答者全体の10%が、鎮痛治療を前提とした医師の処方箋なしにオピオイドを使用、5%が中毒患者になっていることが明らかになっている。そして、オピオイド乱用者の80%が非ヒスパニック系の白人が占めており、大半が高卒以下の学歴しかなく、低賃金労働、失業にあえぐ労働者も少なくないという。


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