Washington Files

2019年10月15日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 「北は核放棄しない」―米大統領補佐官解任後、初めて北朝鮮の核問題の核心に触れたジョン・ボルトン氏の発言が大きな波紋を広げている。金正恩最高指導者との個人的関係に重きを置く“トランプ外交”を一刀両断切り捨てたかたちだ。

 ボルトン氏は在任中、大統領が北朝鮮の金正恩労働党委員長と行った3回の首脳会談についても終始、冷ややかな態度をとって来たことで知られる。ただ、立場上、表立った批判は控えてきた。

 しかし、去る9月10日、解任されたことで自由の身となり、政権の内情暴露も時間の問題とみられていた。

 そしてホワイトハウスを去って1か月もたたない同月30日、ボルトン氏はワシントンの有力シンクタンク「ジョージタウン戦略国際問題研究所」(CSIS)に招かれ、初めて公開の場で自らの持論を展開した。

9月30日、解任後初めて公の場で講演したボルトン氏(AP/AFLO)

 「本日は北朝鮮がもたらす核の脅威について、包み隠さず(in unvarnished terms)語りたい」――と、わざわざ断った上で話し始めたスピーチは内容の濃い、力のこもったものだった。

 その中で核心に迫る重大な指摘は、以下の諸点だ:

 「北朝鮮はこれまで、核放棄の戦略的決断を下したことはない。金正恩が終始とってきた戦略的決断は、核兵器運搬能力を維持し、それをさらに発展、向上させるために全力を挙げるというものだ。彼はいかなる状況下であれ、核兵器を率先して放棄するつもりは断じてない」

 「大統領が金正恩に手を差し伸べてきたこと自体、一方的に北朝鮮側に利するものであり、また大統領は、金正恩とのディールを外交政策面の最優先課題としてきたにもかかわらず、これまでのところ得たものは何らなかった」

 「われわれの最大関心事は、朝鮮半島における核拡散の阻止であり、次回首脳会談が開催できるかどうか、といったことではない。実務者協議で北朝鮮側から何らかのコミットメントを引き出そうとしても、彼らはそれらを順守することなどありえないのだ」

 「私は、北の核兵器を放棄させることについて急がないとしてきた大統領の立場には同意できない。時間は、核拡散に反対する者にとって不利に働いており、時間に寛大な態度はそれ自体、北朝鮮やイランのような国々を利することになる」

 「トランプ政権は非核化の取引を模索する過程で、北朝鮮による国連安保理経済制裁の違反行為を見て見ぬふりして来た。最初は制裁決議採択のために動いてきたアメリカが、違反にもの言わなくなるとすれば、他の国々も北朝鮮に制裁を順守させることなどどうでもいいという結論を導き出すことになる」

 「米韓両国がこれまで実施してきた大規模な合同軍事演習に関し、『米軍による将来の対北侵攻訓練の場だ』といった北朝鮮の非難を受けて中止したことは間違いだ。もし両国が軍事訓練を怠るならば、有事の際の共同戦闘能力を次第に低下させていくことになる」

 上記のようなボルトン氏の“爆弾発言”をめぐり、ホワイトハウスは直接論評を避ける一方、元政府関係者間での反応はさまざまだ。

 ジョージ・ブッシュ政権下で「朝鮮問題六カ国協議」の米側代表を務めたクリストファー・ヒル氏は、「ボルトン氏は以前にも公職から身を引いた後、物騒な発言をした前歴の持ち主だ。今回の場合も(大統領に)時間的猶予をあたえるべきであり、今一人で警鐘を鳴らすことは賢明とは言えない」と批判した。

 これに対し、同じブッシュ政権下で国務副長官を務めた穏健派のリチャード・アーミテージ氏は「彼は北朝鮮問題に関しては総じて、道理にかなった政策を進めてきた。金正恩が核放棄する意図はない点についても、トランプそして文在寅(韓国大統領)を除くすべての人たちと同様によく理解している」として、発言を支持している。

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