Washington Files

2019年10月7日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 ロシア疑惑追及で二の足を踏んでいた米民主党が、あらたに急浮上した“ウクライナ・ゲート”問題をきっかけに、ついにトランプ大統領の弾劾訴追に向けた本格審議に乗り出した。その成否は来年大統領選を控え、有権者の支持がどこまで得られるかにかかっている。

 トランプ大統領をめぐるこれまでのロシア疑惑と今回のウクライナ疑惑を比較すると、以下のようにいくつかの点で大きな違いがある。

(AP/AFLO)
  1. ロシア疑惑では、直接事件関与が伝えられたのは、大統領以外は、マイケル・フリン元大統領補佐官、ポール・マナフォート大統領選対本部長ら、トランプ政権発足以前の要人に限定されていた。しかし、今回のウクライナ疑惑では、ペンス副大統領がウクライナのゼリンスキー大統領と直接接触したのをはじめ、ポンペオ国務長官およびペンス副大統領の首席補佐官がトランプ大統領とゼリンスキー大統領の間の核心に触れる電話会談に立ち会うなど、政権ぐるみで参画していた。バー司法長官も疑惑の一部始終を熟知していたとみられている。
  2. ミック・マルバニー大統領首席補佐官がすでに、ウクライナ疑惑の本格究明に乗り出した下院情報特別委員会にホワイトハウスの最初の証人として正式喚問された。続いて他の政権閣僚や政府高官らもつぎつぎに喚問されることが確実になっている。
  3. ロシアが2016米大統領選に不当に介入した事件では、トランプ大統領はこれまで、事件への直接関与が明確となったプーチン大統領との秘密協議を一切否定し、プーチン氏と二人だけの会談および会話内容の公表も頑固に拒否してきた。しかし、今回疑惑が持ち上がったウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談の場合は、議会民主党の求めに応じ、5ページにわたる詳細な会話記録を公表した。
  4. 国務省や情報当局はこれまで、ロシア疑惑に関する捜査内容、関連資料の議会提出を拒み続けてきたが、今回はホワイトハウスに一時出入りしていたCIAスタッフによる精緻な「内部告発状」を下院情報特別委員会が政府当局から開示を受け、一般公開に踏み切った。米国のあらゆる情報機関の活動を監視するマイケル・アトキンソン「情報監察官」はすでに、ホワイトハウスの反対をよそに議会秘密聴聞会に出席した。
  5. トランプ氏をめぐるロシア疑惑の本格究明は、議会の要請により設置されたロバート・モラー特別検察官チームの手に委ねられ、1年以上に及ぶ徹底捜査の結果、「トランプ氏関与立件できず」の結論となったため、議会民主党は弾劾審議を一時断念した。しかし、今回、民主党は早々に「容疑は濃厚になった」(ナンシー・ペロシ下院議長)として、一気に弾劾訴追に向けた本格調査に踏み切った。
  6. 弾劾訴追の動きに対する国民世論は、ロシア疑惑では「不支持」が「支持」を上回っていたが、ウクライナ疑惑についての世論調査では、当初は賛否がほぼ分かれた。その後、事件の核心に触れる「内部告発状」が大きく報道されるに及んで、各種世論調査でも「弾劾審議支持」が「不支持」を次第に上回りつつある。

 ではこのようなロシア疑惑とは異なる背景を踏まえ、今回、民主党幹部が比較的短時間のうちに、「弾劾審議」の賭けに出た事件の核心は何なのか、そして果たして“勝算”はあるのかについて、事件を洗い直してみる必要がある。

 まずその底流にあるのが、ロシア―ウクライナ―トランプ政権間の複雑な三角関係だ。

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