トランプの精神状況が世界情勢に影響する
今年に入ってからも、多くの精神科専門家たちが懸念する通り、トランプ大統領の個人的決断と政策決定に起因する、国際情勢緊迫化のニュースが後を絶たない。
そのひとつは、イラン危機だ。発端は、国連安保理も後押ししたイラン核合意からのアメリカの一方的離脱であり、米議会や国際社会の反対をよそに確たる理由もなく離脱を強引に推し進めたのは大統領だった。しかし、湾岸情勢はその後安定するどころか、逆に大規模戦争に発展の危険さえも指摘されている。
つい最近では今月、北部シリアに駐留していた米軍特殊部隊の唐突な撤退を受け、これ を見透かしたかのように、トルコ軍がクルド族勢力一掃のための大規模軍事作戦に乗り出したことから、緊張が一気に高まった。さらにトルコ軍の攻勢に対抗するため、シリア正規軍、ロシア軍部隊までクルド側支援に動き始めており、戦火がさらに拡大の様相を見せている。
しかも、今回の米軍部隊撤退は、国務、国防各省当局、および米議会との事前協議は一切なく、大統領が単独で衝動的に命じたものであり、共和党首脳部からさえ批判や反発もあいついだ。
しかし、大統領はこうした反響を意に介するどころか16日、報道陣を前に、自らの決断を「戦略的に大変立派な判断だった」と自画自賛して見せた。そして、これまでシリア国内に潜むイスラム過激派組織「イスラム国」掃討作戦で米軍と共闘してきたクルド族勢力について「トルコと戦わせておけばいい。わが国とは関係ない」と冷淡に見捨てるコメントをしたため、与野党指導者たちが一斉に猛反発している。
また、同日午前、ホワイトハウスで開かれたシリア情勢に関する会合では、出席したナンシー・ペロシ下院議長を目の前にして「あなたは三流の政治家だ」と言い放ち、同席の民主党議員たちにも暴言を吐くなど、大統領は手がつけられない状態(ペロシ議長の表現を借りると“meltdown”メルトダウン)となったため、一同が途中で話し合いを打ち切り、ホワイトハウスを立ち去る騒ぎとなった。
朝鮮半島情勢をめぐっては、大統領は、軍事独裁体制の頂点に立つ金正恩北朝鮮労働党委員長と「恋に陥った」と評するなど異常ともいえる親密な個人的関係を重視してきた。しかし、この間、北朝鮮側は新型短・中距離ミサイル発射実験、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の本格的開発など戦力強化に着々と乗り出し、その結果、北東アジアにおける軍事的不安要因は増大しつつある。日本はじめ北東アジアに深刻な影響を与えかねない国際情勢が、大統領の自己溺愛的な思い入れに振り回されているかたちだ。
内政では、アメリカ経済の景気後退がささやかれる中で、ニューヨーク・タイムズ紙によると、トランプ大統領は最近、来年大統領選での自分の再選に悪影響を与えかねないとして、極度のいらだちや異常な言動も見られ、側近たちが不安を抱いているといわれる。
さらにこの先、ウクライナ疑惑をめぐっては、米下院の大統領弾劾が早ければ、11月末のサンクスギビング(感謝祭)休日入り前にも成立する可能性がうわさされている。そうなった場合、トランプ氏はさらにどのような反応を見せることになるのか……コトは一個人の精神状態の問題にとどまらず、その一挙手一投足が場合によっては世界情勢を揺さぶることにもなりかねないだけに、米国内外での関心は高まる一方だ。
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