2024年7月16日(火)

Washington Files

2019年11月18日

両陣営が「optics」作戦

 去る7月、下院情報特別委員会はトランプ大統領のロシア疑惑めぐり、捜査を担当したロバート・モラー特別検察官を証人として喚問、公聴会を開催したが、その際は、民主党側が期待したような内容のある証言を得られず、かえって下院側の根回し不足がマスコミの批判にさらされた。公聴会実況のアンカーマンを務めたCNNの著名キャスター、チャック・トッド氏は当時と今回公聴会を比較し「前回は民主党側にとって optics の面で惨事 disaster だった。今回、シフ委員長はその点を十分心得ているはずだ」とコメントしている。

 実際に初日公聴会の会場内でも、両陣営の間でこの「optics」作戦の片鱗をうかがわせる“演出”が垣間見えた。

 まず、民主党側は、マルバニー大統領首席補佐官代行が去る10月17日の記者会見で「大統領は(ウクライナに対し)政治的捜査開始を軍事援助の条件とした」といったんは認めた(直後に前言撤回)ことから、その発言のさわりを大書きした横断幕をTVカメラにも目立つように壁に掲げ、「見返り」は歴然との立場で討議に臨んだ。

 これに対し、共和党側は「弾劾抜きでは、大統領再選を許すことになる!」と書いたプラカードを何枚も用意、休憩時間には傍聴席にいた党員たちがこれを掲げて廊下を練り歩いた。テキサス州出身の民主党下院議員がローカルTVとのインタビューで「わが党がトランプ大統領弾劾に向けて動き出したのは、トランプ再選を恐れるからだ」などと述べた言葉尻をとらえたものであり、国民向けに、民主党の弾劾審議の目的が大統領再選阻止にあるとのメッセージ拡散をねらったとみられる。

「見返り」ではなく「収賄行為」

 「optics」面ではナンシー・ペロシ下院議長も13日、2人の証人喚問終了後、報道陣向けにコメントを発表、その中で、これまで民主党側が大統領弾劾容疑の一つとして挙げてきた「見返りquid pro quo」との表現をあえて避けた上で「本日二人の証言は、大統領が軍事援助提供によりバイデン捜査をウクライナ側に求めた事実をさらに裏付けたものであり、明らかに『収賄行為bribery』に相当する」と強調した。

 関係筋によると、「quid pro quo」は専門用語に近く、一般国民には耳慣れない言葉であることから、よりなじみのある「bribery」に意図的に切り替えたとされ、今後は国民向けの弾劾審議を通じ、「bribery」に用語統一してトランプ氏に対する攻勢を強めていくという。

 合衆国憲法は第2章第4条で「弾劾」に触れ「正副大統領およびすべての文官は、反逆罪、収賄罪その他の重大な罪または軽罪につき弾劾訴追を受け、有罪判決を受けた時は、その職を解かれる」と明記している。

 ペロシ議長のこの日の発言は、憲法規定に基づき、トランプ大統領が明確な『収賄行為』により弾劾に十分値することを改めて国民向けに説明したものだ。

 米主要各紙の報道によると、公聴会初日のTV視聴者数は各放送局合わせ全米で1380万人で、昨年6月、ジェームズ・コーミーFBI長官(当時)がトランプ大統領のロシア疑惑について証言した公聴会(1950万人)、同年9月、ブレット・カバノウ最高裁判事承認聴聞会(2000万人)より下回った。比較的低調だった理由として、各証人の知名度が低く、証言内容の大筋は秘密聴聞会段階ですでにマスコミにリークされたことや、公聴会が1日だけでなく今後延々と続くことから、一般国民が気長に考えているとみられることなどが挙げられている。

 皮肉にも、放映したTV各社の中では、トランプ政権の“マウスピース”と揶揄されている比較的新興のFOXテレビの視聴者が290万人で、他の主要局を押さえ第1位だったという。それだけ、既成メディアによるこれまでの意欲的なトランプ疑惑追及にもかかわらず、根強いトランプ支持層がいぜん存在することを示唆している。


新着記事

»もっと見る