2024年11月23日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年4月16日

 EMP爆弾はかつて米ソ冷戦時に競って開発された技術で、核爆弾を製造できる技術さえあれば開発は決して難しいものではない。北朝鮮には60年代にソ連からこの技術が渡り、独自で改良が重ねられてきたと考えられている。ちなみに、北朝鮮の2回目の核実験は「爆発の規模があまりに小さい」ため「失敗」と決め付けられているが、これもEMP爆弾だったと考えればつじつまが合うとピーターフライ博士は言うのだ。そしていま新たに持たれているのが、北朝鮮がすでに極めて広範囲に影響を及ぼすEMP爆弾を開発済みなのではないかという疑惑なのだ。

 このEMP爆弾をアメリカまで運ぶ技術こそ、成層圏まで飛ばしたロケットの再突入であり、今回の実験にも通じてくるものなのである。4月2日には韓国国防部の広報官が、北朝鮮のICBMはすでに米国本土にも到達可能であるとの見解を示して話題となった。つまり、アメリカにとって悪夢の「9・11」が北朝鮮によって再現されれば、民間航空機が高層ビルに突っ込むという程度では済まない、本格的な悪夢にもなりかねないのだ。

「金正恩赤っ恥」報道に浮かれる日本

 このことに絡み最近ではアメリカや韓国でもEMP爆弾に関する報道が多く見られるようになり、一説には電気のストップで流通がマヒした米国では食糧の運搬がストップすることで人口の半分以上が餓死するとの予測まで出されているのだ。そうなればアメリカの食糧に依存する日本もただでは済まない。

 それどころか、北朝鮮の問題で前記のように日本が最前線に立っているとの印象が続けば、北朝鮮が自ら有する兵器の威力を見せ付ける実験場として日本の一都市が標的となるとの可能性さえ出てくるのである。

 現在のところ北朝鮮が本当にEMP爆弾を使用できる技術を得ているのかどうかは不明だが、最大の危機を念頭に外交を行うのは安全保障上の重要な見識だ。

 かつて鬼畜米英と嫌ったアメリカから核兵器の実験場とされた日本が、21世紀に再び「時代遅れで貧乏な独裁国家」とバカにする北朝鮮からEMP爆弾の実験場とされることは何としても防がなければならない。少なくとも「“人工衛星と称する”ミサイル発射」の失敗を前に、「金正恩赤っ恥」と報じて喜んでいる幼児性からは、何も生まれないことだけは確かであろう。

 

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信中国総局記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)
三宅康之氏(関西学院大学教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)
◆更新 : 毎週月曜、水曜

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