私は3月に刊行した『恐怖の環境テロリスト』(新潮新書)で、「日本の捕鯨、イルカ漁を批判することはカネになる。その錬金術を世界に示したシー・シェパードに倣い、より暴力的な手法をとる輩がいま日本に本格上陸しようとしている。日本は、国土が『環境テロ』の脅威にさらされるその前夜の状態にある」と書いた。
リーの母親は日本人だったという報道がある。グローバリゼーション化の中でインターネットで世界とつながっている日本も、環境テロ関連の事件が起きる状況に至る階段を一歩一歩あがっているように私には見える。何よりも、シー・シェパードが日本人活動家をオルグして、そのタネを蒔いている。小さな前兆事案は、すでに全国各地で起きている。
「アニマル・リテラシー」
「ネイチャー・リテラシー」の普及を
日本ではすでに動物実験に反対する諸団体が抗議デモなどを繰り返している。英米で猛威をふるうエコテロ団体SHACの女性活動家が来日し、2003年6月、日本の動物権利擁護団体の活動家とともに、都内の順天堂大医学部の施設に侵入し、実験用動物を盗んだとして逮捕されている。
2008年11月に、厚生省次官宅が相次いで襲撃された殺傷事件では、犯人の小泉毅被告が、中学生のころに飼っていた「チロ」という犬が保健所の野犬狩りに遭って殺処分されたと考え立腹。私怨をつのらせて、「決起」した。被告は以前から、動物の命を粗末にする歴代の厚生次官を人ではなく「マモノ」と考え、殺害を正当化していた。
いわゆる「1人テロリスト」のこの事件は、米国で言えば、FBIが「エコテロ」として分類する事案と言えるかも知れない。小泉被告が「決起」に至るまでどのような本を読み、どんなネットサイトから影響を受けたか改めて検証する必要があるだろう。
環境保護運動や動物愛護運動は人間の地球や動物に対する横暴から守るために必要な営みだ。しかし、情報の流し手は責任を持ってちゃんとした事実を伝え、受け取り手も正しい判断をして行動に移す必要がある。
リーが1ドル紙幣を路上にばらまいたことを記録したユーチューブ上の動画には、競って金を奪おうとする人間の姿が映し出されている。リーは、自らの行動をどう振り返り、ディスカバリー・チャンネルを襲う決断をしたのだろうか?
彼がディスカバリー・チャンネルに持ち込んだ武器は、殺傷能力のない陸上用のスターターピストルだったという。そうして、突入したSWATにより、数発の銃弾を身体に撃ち込まれ息絶えた。
環境テロの事案を詳しく検証するといつも、自分の心に、得も言われない不快感や憂鬱な感情が芽生える。リーの哀れな末期は、限りある資源の地球上に住む我々に大きな課題を突きつけていると思えてならない。人間は生きるために、過激活動家たちがやり玉にあげる動植物への依存を完全になくすことはできない。世界中のありとあらゆる情報が飛び交うインターネット社会では、もっともらしく聞こえる虚言や流言であふれかえっている。活動家たちの扇動に惑わされぬよう、動物たちや自然環境についての情報を正しく理解する「アニマル・リテラシー」「ネイチャー・リテラシー」のような取り組みが今後、ますます必要になると考えている。
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