小説「イシュマエル」に見る
環境テロリスト共通の心理
リーは生前、元米国副大統領のアル・ゴアが地球温暖化について警鐘を鳴らした作品「不都合な真実」に触発されたと語っていた。そして、米国人作家による「私のイシュマエル」(邦題は『イシュマエル ヒトに、まだ希望はあるか』 VOICE社)に影響を受けていたことも周囲に伝えていた。
この小説は、人間の言葉を話せるようになったゴリラが教師になって、ある青年に人類の歴史について教えるストーリーで、人間の自然破壊で住む場所を失われた野生の動物たちの悲哀を訴えている。ゴリラの「イシュマエル」が青年の「僕」にこう語りかける。引用したい。
イシュマエルは一瞬考え、「君たちの文化の人間で、どっちが世界を破滅したがっているのかね?」と尋ねた。
「どっちが破壊したがっている? 僕の知っている限り、わざわざ世界を破滅したがっている人間はいません」
「それでも君たちは破壊している。全員がだ。ひとりひとりが、毎日毎日、世界の破壊に貢献している」
「そうです」
「どうして止めないのだ?」
僕は肩をすくめた。「率直に言って、どうやって止めたらいいかわからないんです」
「個人にとって程度の差はあれ、君たちは、君たちに世界を破壊し続ける行為を無理強いする文明システムに拘束されている。そうしないと生きられない仕組みになっている」
この件には、環境テロリズムの論理を分析する上で、過激活動家たちが共通して持つ心理が捉えられていると言える。
「1人テロリスト」の恐怖
(2010年2月17日 日本本鯨類研究所提供)
1970年代初頭に高まったエコロジー運動に端を発し、様々な団体に分派していったグループの中に、過激な行動を取る者たちが出現した。彼らは地球環境の破壊は差し迫った状況にあるとして「動物や自然環境のためなら人に危害を加えることも構わない」と考えた。そうして、穏健な抗議デモを行うのではなく、人々を喚起させるような直接行動を取る組織を作った。
そうした流れの中で、動物解放戦線(ALF)や地球解放戦線(ELF)、SHACなどのようなエコテロ団体が生まれた。
動物実験施設の放火、破壊工作、執拗で悪質なストーカー行為…。彼らのその過激な行動をつぶさに検証すると、日本の捕鯨船団を襲うシー・シェパードの活動が「穏健的」に見えるくらいだ。
被害が相次いだ米英では2000年代に、“反エコテロ法”を制定して、過激活動家を取り締まってきた経緯がある。米連邦捜査当局(FBI)や英スコットランドヤードなどが中枢メンバーの動向を常にマークしている。しかし、被害は一向に収まる気配はない。メディアやインターネットの情報に触発された、どこの組織にも属さないリーのような「1人テロリスト」が突然、行動に移すからだ。