2022年7月5日(火)

日本再生の国際交渉術

2012年4月24日

»著者プロフィール
著者
閉じる

渡邊頼純 (わたなべ・よりずみ)

関西国際大学国際コミュニケーション学部長・教授

1953年生まれ。上智大学大学院国際関係論専攻で修士号取得、博士課程後期を単位取得満期退学。専門は国際政治経済論、GATT・WTO法、欧州統合論。GATT事務局経済問題担当官、外務省経済局参事官などを経て2019年4月より現職。慶應義塾大学名誉教授。2015年4月より三菱ふそうトラック・バス株式会社監査役。

TPP参加の敷居の高さを認めた中国

 今や世界第2位の経済大国となった中国もTPPを注視していると見て間違いない。2011年11月のAPECハワイ首脳会議ではTPPが議論の中心となった感があるが、以前と比較すると中国のTPPに対する態度はより受容的になってきたように思われる。以前は中国ではTPPのことを「アメリカがアジア圏における利益収奪構造を確立するための対中包囲網」と捉える向きが強かった。これに対し最近の中国政府当局者のTPPに関する発言や中国の国際関係専門家の論調は基本的にTPPを敵視するというよりは、その存在を是認しこれとの共存を図るという姿勢に変化してきている。

 中国外交部の劉為民参事官は11年11月14日に行われた中国外務省の定例記者会見で、TPPに関して「われわれも一貫して交渉の進展に関心を持っており、交渉参加国との意思疎通を保持したい」と述べている。またその翌日には外交部の劉振民部長補佐が「中国の対外貿易関係は全方位的であり、TPPをはじめとするアジア地域の経済融合・共同発展に有益な協力の提案に関しては、常にオープンな姿勢をとっている」と表明した。

 劉部長補佐はさらに、TPP交渉は東アジアの協力機構外での独立した協議プロセスであり、東アジア首脳会議においては議題になりえないとの見解を示しつつ、「APECがあり、東アジア首脳会議(EAS)があり、TPPがある。中国はそれぞれの機構が共存し、相互に補完し合い、相乗効果によって共に東アジアの協力関係に貢献することを希望している」と発言した。他方、現時点でのTPP交渉への参加については、「中国はこれまで通り、現在の協力プラットホームを利用し、東アジアの協力のさらなる発展を推進していく」(『月刊中国News』12年1月号)と述べるに留まっている。

 その背景にはTPPがいわゆる「質の高い」FTAであるとの認識が中国政府内においても共有されていることがある。一例をあげると、中国商務部の愈建華部長は、「相対的に見てTPPの参加条件は厳しすぎる。貿易協定であるTPPは受容性を持つべきで排他的であるべきではない」(月刊中国News』12年1月号)と強調。関税の完全撤廃、高いレベルの知的財産権保護のエンフォースメント、政府調達、国営企業の取り扱いなどで中国にとって「敷居が高い」ことを認めている。

一方で根強い警戒論

 TPP容認論がある一方、TPPに対する警戒論が依然として強いのも事実だ。中国外交部国際司の龍森副司長は11年11月13日、TPPはアメリカ政府部内の政策関係者の共通認識、いわゆる「ワシントン・コンセンサス」の写しのようなものだとして次のように述べている。

 「(TPPは)アメリカの制定したルールであり、アジア経済協力に適用することで中国を抑制しようとするものであることは明らかだ。アメリカは強制力の希薄さゆえにAPECには満足できなくなっていることに加え、中国の台頭によってアジアにおける(アメリカの)再起の必要性を感じている」(『月刊中国News』12年1月号)

 12年3月29日東京で開催された国際会議で、中国社会科学院アジア太平洋グローバル戦略研究院の李向陽院長は、「FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)はスローガンに過ぎない。TPPはAPECの中にTPP参加国と非参加国という2つの勢力を作ることになり、APECを二極化し分断するものである。その二極化の中でASEANは辺境化することになろう。辺境になりたくないASEANの国はTPP参加を目指すという日和見主義的な反応を誘発する」との見方を示した。

関連記事

新着記事

»もっと見る