HPの元CEOと、ドリームワークス元CEO
CESの基調演説の中で注目を集めたものの中にQuibiという企業がある。Quibiは2018年に設立されたビデオストリーミングのベンチャー企業だが、創設者がジェフリー・カッツェンバーグ氏、さらにCEOに就任したのがメグ・ホイットマン氏なのである。カッツェンバーグ氏はディズニースタジオのプロデューサーとしてヒット作を連発、その後ドリームワークスのCEOに就任した。ホイットマン氏はHP社のCEOとして知られ、eBayでもCEOを務めた。
この2人がタッグを組む、すなわちハリウッドとシリコンバレーの融合であり、どんな事業展開が行われるのか、設立当初から話題を呼んできた。実際のサービス開始は今年4月が予定されているが、テクノロジーとエンターテイメントがもたらす新しい動きとは何なのか。
Quibiの基調演説では、まずカッツェンバーグ氏が登場してQuibiのサービス概要を説明。スマホとタブレットのみをプラットホームに想定したビデオストリーミングサービスで、長くて6分程度のショートビデオ配信が中心となる。なぜショートビデオなのかについて、同氏は「移動の途中、待ち時間など、空いた時間を使って完結したストーリーが見られることのメリット」を挙げた。中断しなくて済むストレスを考え、現代の人々のライフスタイルに最も適したストリーミングがショートビデオだと考えたという。
「ビデオ・オン・ザ・ゴー」
同氏によると、2012年には18−44歳の米国人が1日平均スマホでビデオ視聴する時間は平均で6分だったが、17年には40分、そして19年には80分に増加、今年以降は5Gの導入によりこの数字はさらに増えると予測されている。QuibiとはQuick Biteを組み合わせた言葉で、短くても内容の濃い映像を届けることで、「ビデオ・オン・ザ・ゴー」(外出先で気軽に楽しめるビデオ)の普及を目指す。
次に登場したホイットマン氏は、Quibiが他のビデオストリーミングサービスと異なる点は、最初からモバイルプラットホームのみに焦点を当てていること、それにより「スマホに収められた小型テレビ」ではなく、従来とは異なるエンターテイメント経験を提供できることだと語った。
これを説明するために、同氏はテレビの黎明期に言及した。ラジオからテレビへと飛躍的な成長を遂げたのだが、初期にはテレビで何を写すべきかが分からず、アナウンサーが登場し、ニュースを読み上げる、というスタイルだった。現在のスマホによるビデオストリーミングはそれと同じであり、単にテレビで写す内容をスマホ画面に取り込んでいるに過ぎない。
しかしスマホにはGPS、カメラ、タッチスクリーンなどの機能がある。これを活かして、全く新しいモバイル向けのエンターテイメントを作り出せないか、というのがQuibiを始めた理由なのだという。
スピルバーグ氏からの提案
「夜にだけ見られるホラーストーリー」
ひとつの例としてホイットマン氏が挙げたのが、スティーブン・スピルバーグ氏からの提案だ。スピルバーグ監督は「夜にだけ見られるホラーストーリーを考えている」と語った。通常のビデオストリーミングでは時間指定を行うことは難しい。しかしスマホには時計機能が組み込まれており、日没後にならないとコンテンツのロックが解けないように設定しておけば、夜しか見られないホラーストーリーは実現できる。こうして同監督による「アフターダーク」という作品が生まれた。