2024年11月13日(水)

Wedge REPORT

2020年3月9日

 終着点が見えない。新型コロナウイルスの感染拡大による影響は世界を揺るがせている。日本でも連日に渡って報じられているようにスポーツ界へ押し寄せる〝自粛の波〟は勢いを増す一方だ。そしてこの邪悪なウイルスは、ついに欧米の人気スポーツをも飲み込もうとしている。

(Toukung/gettyimages)

セリエA、NBAも

 感染により多くの死亡者が出ているイタリアでは政府が4月3日までに国内で行われる全てのスポーツイベントを無観客試合とすることを決定。欧州4大サッカーリーグのセリエAも例外ではなく、各クラブの経営問題にかかわる可能性が懸念され始める事態となっている。

 急速に感染が拡大し始めている米国でも全米大学男子バスケットボールの「ディビジョン3トーナメント」が6日、国内初の無観客試合で行われた。NBA(米プロバスケットボール協会)も公式戦の無観客試合開催を検討していると米メディアで報じられるなど、とうとう北米4大プロスポーツリーグの一角にまで忍び寄り始めてしまった。

 こうした流れに神経を尖らせているのは、東京五輪・パラリンピックを是が非でも開催させたい大会関係者側も同じである。東京五輪の大会中止、あるいは延期の可能性もささやかれる中、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)にショッキングな記事が掲載されたことで物議を醸した。

 5日の同紙記事で東京五輪に関する新型コロナウイルスの感染拡大への対応策として、WHO(世界保健機構)と各スポーツの国際競技団体の医療担当者が電話で約2時間の協議を行い、無観客での五輪を開催した場合の利点やリスクについて話し合ったと報じられたのである。

 実はこの無観客開催案について大会関係者側の中からも「やむなし」と主張する声が段々と増え出している。日本は新型コロナウイルスの拡大防止に対する取り組みの杜撰さに世界各国からブーイングが向けられ、出入国者の渡航制限をかける国も増加の一途を辿る始末だ。

 開幕まで残り5カ月を切った東京五輪の通常開催が非常に厳しい状況に追い込まれているのは誰が見ても疑いようがない。これまで強行開催しか頭になかった東京オリンピック・パラリンピック大会組織員会の中からも、ここ最近は現実路線派が頭角を現しつつあるという。その彼らが密かに強行開催派へ妥協策としての受け入れを今から準備しておくべきと進言しているのが、WHOと各国際競技団体の場でも話し合われた前出の無観客開催案だ。

 事情通からは、次のような話が伝わってきている。

 「組織委員会の中でも、さすがにこの状況下で大会の通常開催は難しいという見方をする関係者が数を伸ばし始めていると聞きます。とはいえ、それでも開催を血眼になって準備してきた組織委員会の立場としては内部の人間から中止や延期という方向性はどうしても打ち出しづらい。

 ただ、現状で東京五輪開催への逆風は強まる一方。世界全体が新型コロナウイルスによってパンデミック寸前になっているにもかかわらず、日本国内でもイベントが中止や延期、無観客での実施へと追い込まれる中で東京五輪の通常開催だけを唱え続けるのは限界がある。

 それならば、せめて無観客での開催も選択肢のひとつとしてシミュレーションしておくべきではないのか。開催決定権を持つIOC(世界オリンピック委員会)から突然、一方的に『中止』を宣告され、慌てふためく前に組織委員会側として何か代替案も用意しておくべきではないのか。それもあって大会中止という最悪のシナリオに転ばぬよう、あらかじめ無観客開催プランもIOCが中止を視野に入れ始めた際の折衝案として前もって、ある程度煮詰めておいたほうがいいという見方です」

 東京五輪開催については日本国内、いや世界からも「中止」か「延期」を求める意見が激増している。すう勢を鑑みれば本来ならそちらに耳を傾けるべきなのだろうが、大会関係者側としては何とかギリギリの線でも開催させたいというのが本音。そういう考えに基づく現実路線派の妥協策が「無観客」というアイデアのようだ。


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