一見すると足並みは揃っているかのように見えた。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、安倍晋三首相が26日にスポーツなどの大規模イベントについて今後2週間は中止や延期をするように要請。プロスポーツ界では国内男子プロバスケットボールのBリーグが3月11日までの全99試合の延期を発表し、プロ野球のNPB(日本野球機構)も29日から72試合全てのオープン戦を無観客で行うことを決めた。
ちなみに首相要請の前日25日の時点でプロサッカーのJリーグはJ1・J2リーグ並びにルヴァンカップの計94試合の開催延期を早々に発表している。セミプロリーグのジャパンラグビートップリーグも3月8日までの計16試合の開催延期を決め、各競技団体は政府の自粛要請に対して迅速に応じた格好だ。
マラソンは大規模イベントではない?
だが27日、日本陸上競技連盟が3月1日の東京マラソン、8日に行われるびわ湖毎日マラソンと名古屋ウィメンズマラソンの3大会について「参加選手が数百人で大規模イベントには当たらない」とし、予定通りに開催する考えを示すと疑問を投げかける声は各方面で広がった。
当たり前である。筆者も最初に日本陸連の説明を聞いたとき、思わず失笑してしまった。これを「大規模イベントには当たらない」という言い分に理解などできるはずがない。長いフルマラソンコースの沿道にはレース当日、大勢のギャラリーが群がる可能性がある。大会スタッフやテレビ中継クルーを含めた各メディアからの取材陣、ボランティアの人数を含めれば、立派な「超大規模イベント」になるのは自明の理だ。
別の観点からツッコミを入れると、この解釈がまかり通るとするならば「参加選手が数百人」のスポーツイベントや試合は今回の政府の自粛要請に応じる必要はなく開催可能ということになる。Jリーグ、Bリーグ、NPBのセ・パ両リーグ、トップリーグの試合では両軍のベンチ入りメンバーを入れたとしても「参加選手が数百人」のレベルに達するようなことにはならない。だから日本陸連の主張に則れば、別に自粛しなくてもOKという釈義につながる。
開催を強行するマラソンの3大会は、いずれも新型コロナウイルス対策の一環として一般参加を取りやめて規模を縮小している。日本陸連によれば、3大会の参加者を東京が約200人、びわ湖毎日が約300人、名古屋ウィメンズは約130人とそれぞれ見込んでおり「マラソンで言う『大規模』とは数千、数万人」(風間明事務局長)との定義に当てはまらないから開催に問題はないということらしい。
野球、サッカー関係者から上がる不満の声
「我々が苦渋の決断をしたにもかかわらず、こうやって一部だけが暴走してしまったら一体何のための自粛なのか分からない。政府の要請を受け入れた側が貧乏くじを引かされる羽目になるのか。余りにも不公平だし、不満だ」とはNPB関係者のコメント。
こうした類のブーイングはBリーグやJリーグ、トップリーグからも多数耳にした。このように試合の通常開催を泣く泣く断念したプロ各競技団体から日本陸連に対し、怒りの言葉が向けられるのも当然である。確かに「国難」として日本のスポーツ界全体が一丸となってコロナウイルスの撲滅に立ち向かわなければならないはず。しかしながら、公益財団法人の日本陸連が政府からの自粛要請に耳を傾けず、納得し難い理由を掲げて大会の開催強行に踏み切ってしまうのだから本末転倒というほかにない。