2024年4月27日(土)

使えない上司・使えない部下

2020年6月13日

 今回は、大手士業系コンサルティングファーム・名南経営コンサルティング取締役で、社会保険労務士法人名南経営の代表社員である大津章敬(おおつあきのり)さんを取材した。

 大津さんは1994年から社会保険労務士として、中小企業から大企業まで幅広く、人事労務のコンサルティングに関わる。専門は、企業の人事制度整備・ワークルール策定など人事労務環境整備。特に労働関係法令の知識を活かし、労働時間制度などの労務管理の最適化を実施したうえで、それを前提とした人事制度の設計を得意とする。全国での講演や執筆を積極的に行い、『中小企業の「人事評価・賃金制度」つくり方・見直し方(日本実業出版社)』など18冊の著書を持つ。

 大津さんにとって、「使えない上司・部下」とは…。

(invincible_bulldog/gettyimages)

「使える」と評価する部下のタイプ

 クライアントである会社の総務や人事から、社員との労務トラブルの相談を受けることはあります。第三者である私に自社の社員を「使える、使えない」とはっきりとは言いませんが、それに意味が近いことを話す場合があるのです。「使えない」とする理由で最も多いのは、「仕事をなかなか覚えない」「上司が問題のある行動を注意するが、あらたまらない」「上司が言ったこと(指示したこと)しかしない」などです。

 その場で私は、「使える、使えない」といった言葉に反応はしません。背景や本来の問題をお聞きするようにします。相手の話す内容にすぐに乗り、「では、辞めさせましょう」とは間違っても言いません。

 他のケースで相談を受ける場合でも、会社が社員を「使えない」と評価する時は、「上司が言ったこと(指示したこと)しかしない」タイプが多いように思います。言い換えると、上司の考えていることや部下に求めていることを察して、先回りして対処できる部下を「使える」と高く評価する傾向があるのでしょうね。

 この場合の「先回り」は本来、上司へのゴマすりやおだてを意味するものではないはずです。ところが、いい気分にさせてくれる部下を高く評価する上司がいるようです。たとえば、ある中小企業では、社長とは意思疎通が十分にできているので、その一面では「部分最適」なのかもしれませんが、他の仕事のレベルを見ると必ずしも「デキル人」とは言えない管理職がいます。それでも、高い評価を受けているのです。この会社以外にも、客観的に見て、仕事ができるわけではないのに人事の処遇で優遇されている人は少なからずいます。

 さらに言えば、上司は自分と似たような仕事の仕方をする部下を「使える」と高く評価する傾向があるように思います。実は、私にもそのような思いがあります。31歳で管理職になり、4年前から役員をしていますが、似たような仕事の仕方をする部下を高く評価したくなる思いは確かにあるのです。

 実際はそのような思いに駆られることなく、部下を評価し、育成するように心掛けているつもりです。たとえば、私は若い頃から新規提案を積極的にするタイプでした。今もその姿勢は変わりません。ですから、部下を見る時に新規提案に熱心な人を重んじたくなります。

 しかし、新規提案には積極的ではなかったとしても、仕事ができて、適性があると思える部下に活躍してもらえる仕事を任せることもあります。管理職に登用する場合もありました。こういう態勢にしたほうが、部署やチーム、そして会社にとって、そして最終的には顧客に価値があるように私は考えています。ただ単に、私と違うタイプを優遇するのではありません。きちんとした仕事をする力がまずは必要で、そのうえで例えば、発想の仕方が違う人を登用するようにしているのです。

 部署の責任者である私からすると、仕事の進め方やその考え方が違う人が管理職をしていると、部署の運営について意思疎通をする際にストレスに感じることが時々あります。しかし、そのような管理職がいることで、少なくとも私の思考に一工程が増えるのです。それが、部署の運営にリスクマネジメントになっているように思います。管理職全員が、どんどんと前に進める私と同じような考え方だとすると、組織が崩壊しかねません…(苦笑)。

 多様な人材がそろっているほうが、組織は強いと思います。意見や考え方の相違が多少はないと、一面的な物の見方が強くなりがちです。それが、間違った方向に進んでいく場合があります。

 ここまで述べたことは、この20数年で見てきた多くの企業に、程度の違いはあれ、おおむね言えることです。たとえば、社長や役員と似たタイプの管理職が多い会社は、特に社員数が100∼200人の中小企業に目立ちます。会社の総務、人事から相談を受ける時は「管理職に登用する際は、同じタイプの人が増えないように、バランスを考慮されたほうがよろしいのではないでしょうか…」と助言します。それを実行するのは小さな会社ではすぐには難しいのかもしれませんが、多様な人材で組織を作ることを総務や人事として意識の片隅に置いておくだけでも、効果があると思います。


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