WEDGE REPORT

2020年5月28日

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 新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けて、政府は緊急事態宣言を発令し、対象となる地域の企業に在宅勤務を求めてきた。だが、在宅勤務は中小企業や中堅企業ではかねてから浸透していないために、様々な問題が生じている。そこで前回と今回はその実態や課題をあぶりだすために、在宅勤務に取り組む企業を紹介したい。

 今回は、アルバイト・パートを中心とした採用コンサルティング業を行うツナグ・ソリューションズ(東京都千代田区、代表取締役社長 御子柴淳也、234人)に取材を試みた。

自宅で子どもを横に仕事をする社員

現状に日本の商習慣が追いついていない

 同社の主な事業は採用コンサルティングや求人広告の制作などの代行サービスで、顧客層の多くは全国の小売業や外食、飲食業の企業だ。大手では、セブン-イレブン・ジャパンやロイヤルホスト、ファーストリテイリング、王将フードサービスなど。求人広告制作本数は年間約30万本を超え、応募者数は年間約80万人になる。

 本社、関西支社が大きな拠点で、正社員は双方で約140人。主な職種は営業、内勤営業、求人広告制作、総務、人事、経理、広報など。

 在宅勤務は、4月8日から全社員を対象に始めた。それ以前は、育児をする社員など一部の社員が在宅勤務をする場合があったが、全社を挙げての本格的な取り組みは今回がはじめてだ。社員ほぼ全員が自宅で終日勤務し、原則として残業はない。出社した社員は社内外の事情や状況により、営業部員を中心にわずかにいた。

 事業統括本部事業管理本部本部長の向田麻里乃氏によると、現時点(5月15日)までは混乱はないという。特にスムーズに進んでいるのが、総務、人事、経理、広報など管理部門だ。広報の川田ゆきえ氏は「私の場合は、問題や課題を感じる機会はほとんどない。もともと、個人で対応する仕事が多いためだと思う」として、こう続ける。

 「あえて課題を挙げるならば、オンラインミーティングはグループ13社のそれぞれの担当者と話し合う際に、直接会う時よりは意思疎通の壁のようなものを感じることがある。特に何かを創造しようとする場合に、そのように思う。オンラインによる話し合いは、事実をもとに結論を導く場合は効率的だが、余談や雑談から発想のヒントをつかみ、新たなものを創り出すのは難しいのかもしれない」

 一方で、今後の課題が見えてきたのが営業だ。営業統括本部・関西営業本部 本部長の鈴木薫氏によると、在宅勤務を始めるために部内での対応を協議したのが、顧客からの電話やファクスへの対応だった。

 前々から、全員の営業部員にノート型パソコンや社用の携帯電話(スマートフォン)を貸与している。鈴木氏によると部内や顧客(本部)とのコミュニケーションは、在宅勤務の場合でも、IT環境が整っている場合は滞りなくできたという。だが、外食や飲食業の場合、今までも一部に社内(または店舗)のIT環境が制限されている企業があり、社外とはメールでの連絡ができず、電話やファックスで連絡を取り合うことが多かった。

 「当初、政府の発令は都内や大阪など限られた地域に及ぶものだった。同社は全国に店舗がある顧客が多く、地域ごとでコロナウィルス感染拡大に対する認識の差があった。在宅勤務になることを伝えても、全国に伝わりきるまでに時間が必要で、それまでは電話やファックスで連絡が来る可能性があった。弊社側の急な環境変化で店舗が困らないようにするため、電話やファックス以外での連絡手段を検討し、顧客のご協力・ご理解をいただきながら、完全在宅勤務を実現させた」(鈴木氏)

 鈴木氏は、部内ではこのような問題が生じるたびに早急に、管理部門の責任者である向田氏のもとへ報告した。双方で今後の対応を協議し、解決に向けて道筋をつけてきた。中心となったのが、契約書などに必要な押印をどうするか、だった。前々から社内の文書は電子化(ペーパーレス化)を進めてきた。それにともない、たとえば、部下が提出する書類や文書への上司の認め印はシステム上でサインをするようになっている。大半の社員がその方法に慣れているため、今回、問題は生じなかった。

 だが、顧客である企業との契約書などのやりとりは、在宅勤務の状態のままでは難しい場合があった。特に代表者印(法人の実印で、法務局での登記をすることで効力を発揮する印鑑=丸印)を押す場合に、営業部員が出社するケースなどだ。

 「角印(領収書や請求書、見積書などに会社が発行した文書であることを示すために使用する)は電子印で対応ができる場合がしだいに増えている。一方で、代表者印を電子印にするのは古くからの商習慣のため、依然として企業社会全体ではまだ十分にはできていないように思う。弊社としては、相手の企業の考えもあり、独自の判断で電子印にすることはできない。現状に、日本の商習慣が追いついていないようにも思う」(向田氏)

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