新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けて、政府は企業に在宅勤務を求めている。会社や団体の出勤者を最低7割削減するために、たとえば、4月下旬には大型連休に合わせて休暇の期間を柔軟に設定することも促した。
だが、もともと、在宅勤務は中小企業や中堅企業では浸透していない。急に取り組んだところで様々な問題が生じるのが予想される。そこで今回は、在宅勤務に取り組む企業を取材した。
在宅勤務時も出社時と変わらぬコミュニケーション
総合物流企業のバンテック(神奈川県横浜市、西澤正昭 代表取締役社長、430人)は、4月から本社の事務職約150人ほぼ全員が在宅勤務に切り替えた。対象は営業やシステム、総務、経理、人事、開発、マーケティングなどだ。すでに2018年10月から、事務職などを対象にテレワークを導入してきたが、20年4月からは緊急事態宣言を受け、コロナウイルスの感染防止対策の一環としてさらに在宅勤務を浸透させた形になる。
「2018年に導入した理由には、柔軟な働き方ができるようにして、仕事と生活の調和を図りながら、個々の社員が能力を発揮してもらうことがある。社員の納得感を高め、定着率を向上させることや、出社が難しい自然災害時にも業務の停滞を防ぐ狙いもある」(戦略イノベーション本部イノベーション部ブランド&マーケティングチーム 仁多見智恵子 氏)
4月に取材し、この原稿を書く5月15日までの1日当たりの本社出社率は、約10 ~ 15%。この場合の出社率は、数時間の出社でも対象となる。出社は通勤ラッシュなど密度の濃い場所を避けるために、時差出勤としている。5月15日までの間、在宅勤務のみで1度も出社していない社員も多くおり、その場合には自宅で終日、仕事となる。
「18年に在宅勤務を導入して以降、出社率が10%前後に下がったのは、今回が初めて。これまでは約8∼9割が出社し、在宅勤務は1∼2割。この約1カ月で正反対に近い状態になった。一気に増えた形だが、現在までは社内外、個々の社員の中で大きな問題やトラブルはないと私たちは聞いている。数年前から在宅勤務を中心としたテレワークを導入してきた効果が現れているのだと思う」(仁多見氏)
仁多見氏とともに同じグループの一員としてマーティングや広報に関わる陸 晶子氏は2019年4月から月平均5日(終日)のペースで在宅勤務をする。現在、小学校に通う子どもがいるが、3月からは休校中だ。親子で基本的には自宅にいる。陸氏は、仕事の合間に炊事、洗濯、食事の準備、子どもの面倒をする。
「休校中の場合、親の立場からすると在宅勤務は絶対に必要。在宅勤務は子どもが通う学校や体調に合わせて、仕事ができるのが大きい。国内各地にある拠点への出張時にもテレワークが認められているので、支社や営業所、宿泊先のホテルでもパソコンを使い、必要な作業をすることができるのもよいことと思う」(陸氏)
2人のほか、在宅勤務の社員のほとんどが電話、メール、チャットツール、オンライン会議などを通じて社員間や取引先と意思疎通を図る。陸氏は「自分のその時点でのスケジュールや都合で対応できるので、効率的」と話す。
「子どもがそばにいて、炊事、洗濯、食事をする。すぐに電話やメールに対応することが物理的にできない場合は多々ある。できるだけ早めに返信はするが、できない時に無理をしないことも、効率的に仕事を進めるうえでは必要だと思う」(陸氏)
仁多見氏は、4月の1カ月間の出社は5日(1日につき、8時間程)。書類の確認や取引先企業との打ち合わせ、押印などのためだ。陸氏の出社はない。2人は、ほぼ毎日、電話やオンラインで出社時と同じようにコミュニケーションを取る。実際に会うことが少なくなった分、部署内のコミュニケーションが滞らないように、部署全体でオンライン昼礼を30分ほどする (任意参加)。仕事以外の話題が多く、たとえば、趣味についても語る。社員たちからは「同僚たちの新たな面が発見できる機会」と評判のようだ。