想像していたよりも順調にできた
懸念が予想された営業面の問題は、ほとんど生じなかったようだ。これまでに取引関係がある企業だけなく、新規の企業の場合も双方でZOOMなどのITツールを使い、オンラインによる商談にしてスムーズに進んでいるという。
「対面の営業とオンライン営業を比べると、成約に至るまでのプロセスや成約率、営業部の売上などの業績は現時点まではさほど変わらないことに気づく。オンライン営業のデメリットはない、と言えるのではないかと受け止めている。企業への具体的な提案は対面営業のほうがいい場合があるのかもしれないが、総じてオンライン営業はメリットが多い。たとえば、最近、中途入社した営業部員に、先輩の社員とともにオンライン営業に参加してもらうことで研修の対応ができている。対面営業の時よりも容易に参加できるメリットがある」(鈴木氏)
内勤営業については、在宅勤務の場合、外部からの電話に対応することがなくなり、効率的になった。一方で、管理職が個々の社員の仕事のプロセスを正確に把握し、評価するのが難しいケースが生まれたという。これについては、鈴木氏と向田氏らはすでに今後、いかに公平な評価を維持するか、といった視点で話し合いを続けている。
在宅勤務が比較的、スムーズに進んできた理由には、社を挙げての事前の準備があると思われる。半年程前から、向田氏らを中心に在宅勤務を始めとしたテレワークの導入を検討し、調査をしていた。特にITツールや周辺機器、自宅などでのIT環境や社内ルールの整備などだ。最近は、在宅勤務をする社員がウェブ(主にオンライン)にて産業医による健康相談を受けることができるような準備を検討している。
「これまでは、私たちは求人広告の営業や編集制作といった労働集約型産業のビジネスモデルであるために、オフィスでチームを組んで仕事をするスタイルが最大のパーフォーマンスを発揮すると考えてきた。今回の全社を挙げての在宅勤務で、当社想像していたよりも順調にできたと多くの社員が実感できたと思う。これを機に、柔軟な働き方を実現するためにも、在宅勤務をさらに増やすことを考えていきたい」(向田氏)
鈴木氏は、現在の社会の状況や世論が在宅勤務推進の追い風となっていると指摘する。
「今は、世の中の多くが在宅勤務を受け入れている。同じ視点になっているのが、推進するうえで大きいと思う。今後、新型コロナウイルス感染拡大に歯止めがかかり、社会が落ち着きを取り戻した後は、在宅勤務やそれに伴うオンライン会議を始め、人事のあり方は新しい世界に入っていくのだろう、と思う」
今回の事例からは、事前の準備もさることながら、営業と人事の双方の話し合いでスピード感をもって対応する姿勢がいかに大切であるかが、わかる。そのためには、ふだんから全社を挙げて情報、意識、目標の共有を徹底することが必要になる。採用力を高め、自社にとって価値ある人材を採用し、定着率を高めることも、より一層大切になる。各部署やチーム作りができていない中、情報共有はできないものだ。実は在宅勤務を浸透させるためには、人事の基本を忠実に実行していくのが、最も近道なのではないだろうか。
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