コロナ禍以前から、勤続年数2年以上の正社員全員にテレワークを認めていたサントリーは、部署毎の働き方改革の取り組み事例などを全社的に共有する「変えてみなはれ」という社内サイトを活用し、コロナ禍での効果的な取り組みが共有された。
例えば、まだ自立して業務を遂行することが難しい新入社員に対しては、毎朝必ずオンラインで顔を合わせたり、特に用事がなくてもコミュニケーションする時間を意図的にオンラインで確保する、などだ。また、直接対面が基本だった営業においては、テレビ会議システムが意外に使えるという声が上がり、利用が拡大しているという。
人事部課長の増田俊樹氏は、「今後は商談においても、顧客との対応は必ず対面でなければならない、という考え方は変わっていくだろう。営業においても、リアルとリモートを組み合わせた、より効果的・効率的な『新しい働き方』の探索が必要となる」と語る。
一方、情報漏洩リスクやセキュリティを理由としてリモートワークの導入が遅れてきた銀行業界でも、コロナ禍を機にテレワークが浸透しつつある。
あおぞら銀行では、2017年から電子稟議(りんぎ)システムを導入するなど、テレワークと相性の悪い紙・ハンコ文化から転換を図り、保有文書の約6割を削減し、2000人強の全行員に対してテレワーク可能な制度が整えられていた。銀行業界の中では極めて先進的な動きだが、コロナ前まではテレワーク利用者は月50~100人ほどにとどまっていた。それがコロナ禍で4月には約1300人が利用し、社内アンケートでは、「テレワークの利用がコロナ後も増える」と考えている人は8割に上った。
人事部企画課長の高山功士氏は、「これまでテレワークをしなかった人が抱いていた『自宅じゃ業務ができない』という固定観念が薄まった。また、非対面のオンライン会議が基本になったことで、短時間で効率的に会議を行う意識が生まれ、会議時間がすでに短くなっている。こうして多様な働き方を経験する中で気づいた、より生産性を上げる業務の進め方は今後も続けていきたい」と語る。
ここで忘れてならないのは、リアルとリモートをミックスした働き方改革を進めるにあたり、それを機能させる評価制度を整える必要があることだ。
コロナ前から全社員にノートPCが貸与されているソニーは、緊急事態宣言中もグループ全体で約7割、東京本社では約95%が在宅で業務を行った。「柔軟な労働環境を整えることで、社員それぞれのライフスタイルに応じて能力を最大限に発揮してもらい、生産性が高まるよう各種人事制度を導入してきたことが役立った」と人事企画部労政グループ統括課長の高田直樹氏は語る。
同社では、柔軟な働き方とセットで社員の自律を促すための厳格な人事評価が導入されており、年間の賞与は社員個々の役割と成果に応じて40~130%の間で変化するという。こうした「責任ある自由」を確立する人事制度が柔軟な働き方の根底にある。
早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏は、「生産性を高めるデジタル化、それに伴う人事制度の整備など、以前から日本企業に必要だった変化だ。それがコロナ禍で加速しているだけで、このタイミングですらその変化に乗り遅れる企業は、市場から取り残されることになる」と指摘する。
■逆境に克つ人事戦略 コロナ禍を転じて福となす
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Part 2 コロナ前に戻る企業は要注意 生産性を高める働き方の追求を
Column 「脱ハンコ」を妨げるクラウド未対応の電子署名法
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