2024年11月22日(金)

医療を変える「現場の力」

2012年6月29日

 「今思うと一番驚いたのは、息子が亡くなった直後から病院の人たちの態度というか、雰囲気が突然変わったことなんです」。それまではごく普通に接してくれていた看護師も、メモを取りながらの事務的なやりとりのみとなってしまった。

 「看護師さんは明らかに上から指示されて、何かを記録するために私についているという感じでした」

置き去りにされ二重、三重に傷つく家族

 悲しみにうちひしがれた豊田さんに対し、その後も病院側の対応のまずさは続く。

 入院後数時間で亡くなったため警察を呼んだのは病院側だったのに、理貴くんの死因に関して何の説明もないままに1カ月以上が過ぎた。カルテ開示を求めると応じたものの、豊田さんが最も不審に感じていた理貴くんへの診療対応の遅さについての認識は病院側にはなかったという。

 一方で、新聞報道されたあと即座に行われた記者会見では、病院側は診療対応の遅さと診療体制のミスを認めていた。この時点で理貴くんの死から2カ月以上が経っていた。

 しかも不思議なことに、会見は豊田さんたち家族に対してきちんと向き合ってミスを認めるよりも先に行われていた。事故調査委員会による報告書の説明も記者会見が先で、家族に説明があったのは会見から13日も経ってからのことだった。

 しかし残念ながらこれは、特別にレベルが低い病院での、特に対応が悪かった事例というわけではない。人間が関わる限りミスは一定の割合で発生する。そして、医療事故に遭ってしまった人やその家族には、豊田さんと同じような経験をしている人が多い。もっとも説明を受けるべき立場にいながら、なぜか置き去りにされてしまうのだ。

 大切な人を納得のいかない状況で亡くしたり、自らの健康を損なったりした医療事故の被害者の多くは、なぜそんなことになってしまったのか分からない苦しみを味わい、そのうえ病院側からの扱いにも傷つけられ、二重、三重の被害を受けたと感じていると、豊田さんは言う。

病院が努力してくれている姿勢が見えていたら

豊田さんの勤務する新葛飾病院の患者支援室は、からだ学習館に併設されており、誰でも入りやすいよう工夫がされている

 現在豊田さんが理事長を務める、患者・家族と医療をつなぐNPO法人架け橋では、医療者と患者・家族の間の信頼関係を築くことを目的に、医療従事者へ、コミュニケーションや対話促進のためのサポートや啓発活動を行っている。今年4月にNPO法人となり、さらに活動を充実させている最中だ。

 「重大な事故がおきてしまった時には、まず第三者に入ってほしいと感じるのではなくて、その場で一緒にいたスタッフから声をかけてもらいたいんです。でもその人たちもショックを受けてしまって、声をかけられないかもしれない」と、豊田さん。


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