2024年11月25日(月)

医療を変える「現場の力」

2012年6月29日

 また、こうも言う。「私たちの知らない間に事故調査委員会が立ち上がって病院の中で調査されていたのに、そのことを伝えてもらえませんでした。病院が努力してくれている姿勢が見えていたら、気持ちがずいぶん違っていたと思うんです」。

 このような経験から架け橋ではまず、医療者側への啓発活動や患者相談を担当する人のための研修で、間接的に患者や医療事故被害者、その家族への支援を行うことからスタートしている。

故清水陽一さんとの出会い

 架け橋の活動のきっかけは、ある一つの出会いからだった。

新葛飾病院の患者支援室の前で。豊田郁子さん(右)と、医療安全対策室の副主任で看護師の杉本こずえさん(左)。

 2004年、悲しみのただ中にいた豊田さんに、「患者の視点で、医療安全に関わってもらえないだろうか」と持ちかけたのは、現在豊田さんが患者相談支援員として勤める新葛飾病院の前の院長、故清水陽一さんだ。

 清水さんは、「うそをつかない医療」を病院の理念に掲げ、「逃げない、隠さない、ごまかさない」の三原則の実践に取り組んでいた。「人は弱いもの。自分も弱いから、いつ隠したり、ごまかしたりしてしまうか分からない。だから患者の立場で見張っていてくれる人が必要だ」と、ことあるごとに話していた院長だった。

 豊田さんはそんな院長のもと、約1年をかけて患者支援室を立ち上げた。そしてここで、直接医師や看護師に相談できない患者さんからの相談や、ときには苦情にも対応する一方で、医療従事者からの患者さんへの対応に関する相談を受けるなど、患者と医療者の“架け橋”としての仕事を開始した。

大事なのは、そこにいる当事者が対応すること

 「最初の頃は、患者さんと何かトラブルがあると『相談室さんお願いね』、みたいに丸投げされることもありましたが、大事なのは、そこにいる当事者が対応することなんです。病院の人間は中立じゃないから第三者を入れてほしいというのは、話がこじれて敵対関係になってしまってからのこと」と、豊田さんは言う。

患者支援室には、職員たちも気軽に相談に訪れる。医事課からの相談に応える豊田さん(左)

 患者支援室では患者さんや家族からの相談を直接受ける場合もあるが、病院のスタッフがしっかり患者さんに向き合えるようにするサポートを大切にしている。つまり対話の場をつくることだ。

 対話の場が用意されることで、患者さんや家族は安心できる。豊田さん自身、そのような場すら用意されなかった辛い経験をしているからこその視点だ。

 また、医療者側の当事者も、実はきちんと向き合いたいと思いながらできずにいると、大きなトラウマとなってしまうことがあるのだという。向き合える場をつくることは、双方にとってプラスとなるのだ。


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