患者支援室が立ち上がって7年。今では、職員が自分たちでできる限り対応をし、対応しきれないところをチームでサポートしあうという体制ができている。
最初はこのような仕事が病院内で成り立つのかと心配もしたが、杞憂におわった。「スタッフが、自分がダメージを受けてしまって患者さんのサポートが難しいときに、一緒に入ってくれてありがとうと言うんです。やってみて初めて分かったことでした」。
患者を支援する人を支援する
患者支援室を立ち上げた翌年、ここで患者や患者家族と向き合うことの大切さなどをテーマにした職員向けの研修会も始まっていた。
その取り組みをもっと院外に向けて行おうと、今の架け橋の前身「架け橋~患者・家族との信頼関係をつなぐ対話研究会」が立ち上がったのは2008年のこと。全国3都市で、医療事故被害者や医師、法律家などを講師とした患者支援相談員養成講座を行うなどの活動も始まった。
そして今年4月、「患者・家族と医療をつなぐNPO法人 架け橋」が設立された。メンバーは、医療事故の被害にあった家族、医療者側で事故を起こしてしまった当事者、医師、法律家、医療コミュニケーションの研究者など。
これまでの研修をさらに充実させていくこと(普及活動)と、患者相談窓口などで患者の相談を受ける立場の人へのサポート、そして患者・家族と医療従事者のよりよい関係やコミュニケーションなどに関する研究を3本柱で行っていく予定だ。
正直に言ったら訴訟が増えるのでは!?
そんなきれいごとを言ったって、医療ミスやインシデントを起こした当事者が正直に話したりしたら、訴訟が増えてどうしようもなくなるのでは? という心配も頭をかすめる。ところがそうではない。架け橋副理事のひとりで、自らも医療事故で母親を亡くしている川田綾子さんは、「なぜそのようなことになったのかが分かった方は、訴訟を起こすまでいかないという傾向があることが、最近の調査では分かってきています」と言う。
また社会保険相模野病院では、ミスやインシデントをきちんと報告し、患者側にも隠さず話すという取り組みを行ってきているが、この方針にしてからの方が職員も増え、逼迫していた財政も黒字に転換し、経営は順調なのだそうだ。
もちろん、隠さず話すということが経営に直結しているとは一概には言えないが、少なくとも良い方向へと変化する要因の一つといえるだろう。
院長の内野直樹さんは、職員の意識が変わり、職員アンケートではこの方針を続けた方がいいという回答が100%であったと、今年5月に行われたNPO法人架け橋の設立シンポジウムで報告している。
息子の死を無駄にしない
豊田さんはいま、病院での患者支援員としての仕事、架け橋の理事長としての仕事に加え、さらに患者団体のサポートも行うなど、さまざまな活動に日々とびまわっている。その原動力は、やはり9年前の医療事故から来る部分が大きい。「私たちの活動が、医療者間、医療者と患者のコミュニケーションが充実するきっかけになれば、息子の死を無駄にしないことになるのではないかと思っています」。
「架け橋」のホームページ
http://www.kakehashi-npo.com/
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