2024年5月16日(木)

山師の手帳~“いちびり”が日本を救う~

2012年7月4日

 かくいう私も人生の終焉に向けて僧職を目指し、二足のわらじを履きたいと努力している。日本に滞在しているときの金曜日の夜は浅草の東本願寺学院に通い、声明(しょうみょう・お経)の勉強をしている。私の他にも、熟年の院生が僧職を目指している。

 二足のわらじを実践するうえで難しいのは、どのように時間を捻出するかという所だ。つまり、本業との両立だが、仕事の時間を確保するために夜の宴席はご法度である。お陰様で、1年でガンマGTPは20年振りに正常値に戻った。また、海外出張は土曜日発の木曜日帰りに調整しなければならないので、長期海外出張も減り家族との語らいが増えた。

 東日本大震災以降の日本は原点に戻って、QOL(生活の質)を見直すべきだといった空気を感じるが、自分自身も、寺院における非日常の方が日常に溢れる物質文化よりも新しい価値観に誘導されていると感じる。

 周囲を見渡せば、尊敬していた先輩や上司の老後の楽しみといえば月並みで、もう一つ本当の生きがいを見出せないような印象が拭いきれない。二足のわらじを履くことは、逃げる場所を用意しながら好きなことをするということではなく、自分の本業に囚われない違う自分を見出すことに意味がある。それこそが、「自分にはこの仕事しかない」という視野狭窄から抜け出せる道だろう。

 何かと「逃げ切り世代」と呼ばれる我々団塊の世代だが、「もう遅い」と諦めるのではなく、サラリーマン時代にはなかった新しい自分を探さなければならない。これまでとは違う高齢社会の生き方を団塊世代が創造することができれば、日本社会の変革にも資するはずだ。

◆WEDGE2012年7月号より

 

 

 

 

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