6月22日、トランプ大統領は就労ビザの発給を制限する措置を打ち出した。パンデミックで失業者が増える中、米国の労働者を外国人労働者との競争にさらしたくないというのが動機であると思われる。外国人労働者をどのくらい入れるかは各国が決めていい問題であり、どう決めようが自由である。しかし、その決定がもたらす経済への影響や移民派出国との関係などにも配慮する必要がある。今回の措置は多くの問題を提起すると考えられる。
まず、今回の決定は米のハイテク産業に相当な打撃になると思われる。ウォールストリート・ジャーナル紙の報道によれば、2019年に、グーグルは6000のH-1Bビザ(一時的就労が可能)を、アップルは3500のH-1Bビザを、オラクルは1900のH-1Bビザを、クアルコムは1300のH-1Bビザを申請したとされている。米国のハイテク産業は外国人の頭脳労働者にかなり頼っている。6月25日付けのフィナンシャル・タイムズ紙社説‘Donald Trump’s draconian visa ban’は、「今回の措置は、主にH-1Bビザでアメリカに入る熟練労働者に打撃を与える。そのような労働者は、金融から医学研究までのセクターで強く求められており、コロナウイルスワクチンの追求にも不可欠である」と指摘する。
上記フィナンシャル・タイムズ紙社説は、H-1Bビザの約4分の3がインド国民によって保持されていることを挙げ、今回の措置は、中国の台頭を抑制するというトランプの外交政策を弱めることになる、と警告する。H-1Bビザを持つ人の4分の3がインド人というのは驚くほど高い率である。確かに、今度の措置は、インドから見ればインドを狙ったもののように見えるだろう。これは、対中戦略上重要なインドを疎外することになる。
ハイテク分野での競争は、これからますます厳しいものになると見こまれている。米中の新冷戦のような状況が出る中、特に米中間のハイテク分野での競争の帰趨は重要である。通常トランプを支持することが多いウォールストリート・ジャーナル紙も、本件について6月23日付で‘Trump’s Immigration Gift to China’と題する社説を掲載、「高度熟練外国人労働者を締め出すことは米の技術革新を阻害し、AI、半導体、biotechを支配しようとする中国の努力を助ける。勝者はファーウェイ、バイドゥ、テンセントを含む、中国政府の息のかかった企業ということになる」と批判している。
トランプはこの措置を再選の可能性を高めることを念頭において打ち出したと思われるが、そういう効果が出るか否かはこういう批判もあり、あまり確かなことではない。
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