最近、グローバル・サプライ・チェーンを利用した海外からの調達を国産品調達に切り替えることによって、今回のようなコロナ危機によって被る悪影響は小さくできる、という理解が常識化しつつある。しかし、こうした「常識」は間違っている可能性がある。
ミシガン大学のBarthélémy Bonadioらによる論文(B.Bonadio,Z.Huo,A.Levchenko,and N.Pandalai-Nayar,”Global Supply Chains in the Pandemic”,NBER WP 27224,May 2020.)は、計量モデルを用いて、グローバル・サプライ・チェーンから国産化に代替しても、平均して言えば、パンデミックショックに対してより強靭になるとは必ずしも言えないことを示した。論文によれば、世界平均で見ると、国産化ケースのGDPはマイナス32.3%となり、基準ケースのマイナス31.5%より、やや大きくなっている。
こうした結果が出る理由はいくつかあろう。第1は、グローバル・サプライ・チェーンを利用した海外からの輸入分を国内生産に切り替えた場合には、国内のロックダウンが国内産業に及ぼす影響はこれまでよりも大きくなるからである。第2は、最終製品にかかる輸入を国内での組み立てに切り替えたとしても、最終製品の生産に必要な原料や部品をグローバル・サプライ・チェーンに依存している場合には、海外の生産縮小が自国に及ぼすサプライショックは小さくは出来ないからである。
さらに言うと、最近の反グローバリズムの高まりは、幾つかの点で大きな問題を有している。まず第1に、そもそも既存のグローバル・サプライ・チェーンは効率的で安価な生産体制であるが、これを放棄し、各国が自給自足型の経済に逆戻りすることは、低コスト・低インフレ・低金利という構造から高コスト・高インフレ・高金利という構造への転換を意味する。第2に、輸入を閉じるための保護貿易政策は、設備投資を抑制し中長期的な成長の足枷になる。第3に、自給自足型経済の採用までには至らなくても、国際貿易と国際金融のデカプリングはいずれの国にとってもメリットとはならない。例えば、米国では大きな貿易収支の赤字をファイナンスするに必要な海外からの資金流入がなければ、ドルの覇権は一挙に崩れる可能性がある 。また、反グローバリズは、途上国にとってはこれからの発展には大きな障害となろう。
もちろん、国産化によって問題はなんら解決しないことを強調することは、海外への投資先を特定の一国に集中することを正当化するものではない。そもそも今回のコロナショックがなくても中国一国に集中してオフショア生産を行うことの根拠はなくなりつつある。その理由は、第1には中国での生産コストの優位性が賃金等の高まりによって喪失しつつあること、第2には「すべての卵を1つのカゴに盛るな」とのリスク分散の原則に反することである。要するに、今後のサプライチェーンの在り方については、中国か、さもなくば国産化、という二者択一ではなく、リスクを考慮した効率的な比較優位の生産構造をもう一度問い直すということである。すなわち、サプライチェーンを重複させることで強靭性を高め、リスクの低減を図っていくことになろう。
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