2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年7月30日

 エチオピアは、ナイル川の支流に建設した巨大ダムへの湛水を開始する。2011年に建設工事が開始されたこのダムは、アフリカ最大の発電プラントであり、エチオピアの発電能力を倍増させ、サハラ以南で既に最もダイナミックな経済を活性化する電力を供給することになる。巨大発電所の効果としてエチオピア経済は強化され、「アフリカの角」地域における同国の存在感が増すことになろう。

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 この巨大ダムによりエジプトのナイル川の水量が大幅に減少する可能性もあるとされ、エジプトにとっては死活問題とされる。何千年もの間ナイル川を支配してきたエジプトは強く反発している。他方、エチオピアにとっても国家の威信をかけたプロジェクトであり、発電に利用された水は放出されるのでそのような大きな影響は出ないと主張し、延々と交渉が続いていた。

 ムバラク政権時には、武力でこのプロジェクトを破壊する作戦も練られたとされ、現政権もすべてのオプションがテーブル上にあるとしている。エチオピアの見込みでも湛水には4~7年かかるとされており、水量の多い雨期に行うとのことなので、直ちに大きな影響が出るわけではないが、中長期的にどのような影響が生ずるかは予測しがたい。

 今年1月には米国と世銀の仲介により、両国にスーダン(エジプトと同じくダムに警戒感を持っている)を加えた3か国の協議がワシントンで行われ、双方の歩み寄りが見られたものの、貯水期間、放水量、運用方法についての合意は得られなかった。6月末にAU(アフリカ連合)の仲介で行われた首脳間のテレビ会議の結果でもエジプト、スーダンはエチオピアによる一方的措置は控えることで一致したと発表したのに対し、エチオピア側は2週間以内に貯水を開始すると発表し、にわかに緊張が高まっている。

 このような国際河川の利用については、慣習法を条約化したとされる「国際水路の非航行的利用に関するする条約」が発効しており(ただし、エチオピアとエジプトは同条約を未締結)、国際法上、他の流域国の利益を考慮して衡平かつ合理的な方法で、最適かつ持続可能なものとする義務があるとされてはいるが、下流国の同意が条件とはされていない。

 エジプトの出方次第では、地域情勢を不安定化させる問題ともなりかねない。とはいえ、エチオピア、エジプト、スーダンの3か国は10年近くに渡り交渉を行ってきており、既に条件闘争の段階に入っている。ダム建設による影響についての対策が合意され、その便益をエチオピアのみならずエジプトやスーダンにも均霑(きんてん)するような調整ができれば、むしろ地域協力のモデルとなるような可能性もあり得るのではないだろうか。

 エチオピアは「アフリカの角」の中心を占めている。スエズ運河へのアクセスを管理する紅海に近いという理由から、外国列強は常に「アフリカの角」に関心を持ってきた。近年では、中国は多額の投資を行い隣国ジブチに軍事基地を設置し、ジブチとアディスアベバを結ぶ鉄道建設に資金を提供しエチオピアの海との連結を強化している。ただし、「アフリカの角」地域の政治家たちは、一方的に外国の干渉の犠牲者になって来たわけではなく、むしろ、外国を競争させることにより利益を得ようとしてきた面もある。いずれにせよ、米国にとっては、上記のような3か国間の調整の中で何らかの役割を果たせれば地政学的に重要な「アフリカの角」への影響力の確保にもつながるであろう。対エリトリア和平でノーベル賞を受賞したアビィ首相の調整力にも期待したい。

  
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