2024年7月14日(日)

DXの正体

2020年8月17日

下請け企業が上を突き上げる〝凄み〟

毛利氏(左)と筆者

 毛利さんが、最初に取り組んだのは自社内の効率化だ。東京でシステム会社を起業していた兄の助けも借りて、「人材・組織」「業務」「財務」「顧客」の4つのカテゴリに分けて、受注、発注、出入金、見積、現場(工事)の進捗から、経費精算、出勤管理、健康診断や資格情報まで一元的に管理できるソフトウェアを開発した。

 「情報をつないだことで、漏れや勘違いなどのトラブルや無駄が無くなり、想像以上に精度が向上し、時間が短縮され、業務の効率化が進みました。また、工事案件別の収支がいつでもどこでもタイムリーに分かることで原価意識が高まりました。これまでは、元請業者からの要望に応えなければならないということばかりに意識が行っていましたが、原価を知り、求められていることに自信が持てたことで、適正な価格で受注できるようになりました」

 これにより、利益率の低い仕事は自社が提供する付加価値を理解してもらえてないという結論で断ることが可能になった。サブコン1社からの受注が80%を超えていた状態を、7年間でサブコン20社で40%にまで減らした。サブコンを増やすだけでなく、設計事務所やゼネコン、同業他社からの受注を増やした結果だ。粗利率は17%から31%まで上昇した。就業環境も改善し、1年間で10名の若手人材の採用を実現した。この仕組みを「建設タウン」と名付けて他社への販売を開始。さらに建設業界全体へのICT推進を実現するために新会社「TRECON(トレコン)」も立ち上げた。

 次に取り組んでいるのが、業界情報の共有化だ。下請け構造のなかでは、「不安で仕事は断れない」という情報格差が生まれてしまう。それは、信頼できる情報元がないからだ。そこで「Gembastation(現場ステーション)」という情報プラットホームを作り、どこにどんな仕事があるか、どこにどんな業者があるか、を地図上にプロットして示すようにした。この情報を元に職人や案件の過不足マッチングが行える「助け合いネット」も開設した。

 「そもそも、日本の不動産は買った人が損をするという形になっています。というのも、買った瞬間に、〝中古〟となって価値が下がるからです。それも3割から5割減にも及びます。情報が信頼できる形で管理されているアメリカでは、不動産に投資した価値がそのまま維持され続けている現状なので対照的です」

 建設市場情報の共有、見える化が進めば市場価格も明らかになってくるほか、将来的にはAI(人工知能)を使って工事価格を予測することも実現できるという。さらに、どの会社が施工したのかということが見える化されていれば、施工の品質不良などが起きたときに、責任の追及がしやすくなるという利点があるだけでなく、常に見られているという意識から自然に品質を高める努力をすると考えているのだ。結果として、自然に作業の安全性が担保されるとのこと。

 興味深いのは、この仕組みを「下請け企業」の立場である毛利さんが構築することに取り組んでいることだ。下から、上を突き上げていくところに〝凄み〟がある。

 「コロナ禍は、非常に厳しい試練ですが、これ以上ないチャンスだとも思います。必ず格差が広がり、淘汰が起きます。地道なICT化でカイゼンを続けていれば、ひとりでにDXが加速し、無理なく時間が創れるのです。つまり、無理なく利益が確保できます。的を射たやるべきことをやっていれば、今後は、人手不足や短納期、高品質へのニーズから、自然に職人や工事の市場価値が高まるのが、これからの建設市場です。」

 毛利さんが新たに立ち上げた「TRECON社」は、「Trends Construction」(建設業界の新しいトレンドや市場(トレンド)を意図して作ることを目指す)という言葉から生まれたという。情報プラットホームを活用して、『建設業界に携わる全事業者が儲かる』WINWINの仕組み構築に向けた毛利社長の動向とそれを支えるDXの取り組みに注目したい。

  
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