世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年10月20日

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 10月6日付Project Syndicateに、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が、「ポスト・パンデミックの地政学」と題する論説を寄せ、2030年の世界予測について5つのシナリオを提示した。それらは、①リベラル秩序の終焉、②権威主義の台頭、③中国支配の秩序、④グリーン国際協力、⑤基本的には現状継続という5つである。ナイ教授は、5つ目の基本的には現状の継続シナリオの可能性が高い旨述べている。

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 1つ目のシナリオはグローバルでリベラルな秩序の終焉だ。第二次世界大戦後に米国が構築した世界秩序は、国際貿易・金融の自由化をもたらした。中国はこの秩序から大きな利益を得、国力の増大に伴い自らの主張を強めた。米国は抵抗し、国際機関は委縮し、主権の主張は増大した。米国は WHO、気候変動パリ協定から脱退した。新型コロナウイルスは、このシステムのマネージャーとしての米国を弱体化した。

 2つ目は権威主義の台頭シナリオである。大量失業、不平等の拡大とパンデミックの経済打撃による社会の混乱は権威主義的政治の出現を容易にする。政治家は権力掌握のためにナショナリズムを利用する。保護主義が増大し、入国規制が強化される。権威主義国は自国の権益圏を固め、暴力や紛争のリスクを高める。

 3番目は中国支配の世界秩序シナリオである。中国はパンデミックを克服し、インドやブラジル等他の新興国との差は拡大する。中国は尊敬と従属を要求する。「一帯一路」政策は欧州や南米等遠隔地域にも適用される。パンデミックは中国の相対的力を高め、中国政府と企業は意のままに国際機関を変え、国際標準を決めようとする。

 4つ目は環境課題シナリオである。多くの国での世論調査で環境問題に一層大きな優先順位が付されている。パンデミックにより人間の健康と地球の健康のリンクが強調され、環境の国際課題化は加速する。米国の国内政治が変われば、大統領はコロナウイルス・マーシャル・プランを打ち出し、途上国の人々へのワクチン投与を支援することができる。

 5つ目は現状継続シナリオ。今回のパンデミックは2030年には、1918~20年のスペイン風邪と同じように、過去に起きた単なる不快な問題と見なされるだろう。何れの国もパンデミックや環境問題を一国では解決できない。米中は東シナ海や南シナ海での海洋自由などを巡って競争しても、パンデミックや環境では協力する。米国は、過去のような影響力はないが、引き続き世界最大の国家であり続ける。

 5つ目のシナリオの可能性が高いというナイ教授の見解は、基本的には穏当な見方だと思う。今回、新型コロナウィルスのパンデミックの地政学的影響は大きいが、それでも根本的に世界を変えることにはならないだろう。

 他方、ナイは、環境がいずれにせよ大きな国際課題になるという。環境問題の重要性を改めて認識させられる。日本も一層戦略的に努力していく必要がある。

 3つ目の中国支配の秩序シナリオは十分考えておく必要がある。しかし、中国の将来は未だ不確実な要素が多いのではないか。何よりも価値観が、西側民主主義諸国とは問題となる。さらに、中国の人口や国土、経済力、技術力、軍事力等サイズ自体も莫大な力になり、国際政治的に問題となり続けるだろう。

 ナイは、トランプ再選は大きな可変要因になる、再選となれば5つ目のシナリオの可能性は下がると指摘する。来る11月3日の米国大統領選挙が重要な所以である。賢明な結果を期待したい。なお、9月29日の第一回テレビ討論は酷かった。トランプにはマイナス、バイデンにはプラス(気力、振る舞い、品格など)だったとの印象を持つ。

 第5のシナリオの描写は良く理解できる。「米国は、過去のような影響力はないが、引き続き世界最大の国家であり続ける」とナイは述べている。現実的なシナリオだと思う。競争はあるが協力もある世界に戻すとともに、国際秩序の管理能力を高めて行くことが必要だろう。

  
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