世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年10月15日

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Ihor Kashurin / Anson_iStock / iStock / Getty Images Plus

 創設以来南米出身者が占めてきた米州開発銀行(IDB)総裁の座にトランプ政権の高官(米国家安全保障会議のクラベルカロネ上級部長)が選出された。9月12日に行われたIDB総裁選挙では、加盟国48か国中、域内加盟国23か国を含む30か国がクラベルカロネを支持し、出資比率においても圧勝したといえる。

 当初、「総裁はラテンアメリカ出身者」という不文律を破ったことに対する反発は強く、元コスタリカ大統領など有力候補もいたにもかかわらず、ブラジルやコロンビアが米国支持を表明するなどラテンアメリカ諸国の足並みは乱れ、投票延期論も支持を得られず、結局対立候補も辞退する結果となった。

 トランプ再選の可能性を考慮すれば、この段階で米国と事を構えることは得策でないとの判断もあったのであろう。

 9月17日付の英Economist誌は、このモンロー主義が戻ってきたような事態は弱い分裂した南米の敗北を意味する、と評している。ただ、同記事は、今回のIDB総裁選挙の事例をもってモンロー主義の復活を改めて認識しているようであるが、いささか焦点がぼけているようにも感じられる。トランプには、選挙戦中からモンロー主義的傾向があり、2018年11月の国連総会演説でもそのような立場を明らかにしており、同時期のボルトンの「暴政のトロイカ」演説でも確認されていたことである。

 IDB総裁人事に関する米国の強硬な対応の背景には、ラテンアメリカ地域に対する中国の影響力拡大への懸念がある。昨年3月に中国で開催される予定であったIDB総会が開催1週間前にキャンセルされたが、その理由は中国がベネズエラのグアイド暫定大統領の代表の出席を認めない方針を変えなかったことにあった。

 国際機関の会議の開催地は事務局を通じて調整されるのが通常なので、このような事態は予想できたにもかかわらず中国での開催を進めたモレノ総裁に対し米国が不信感を持ったことは想像に難くない。後任者に中国に宥和的な人物を排除し、IDBを中国に対抗する手段として効果的に活用するには、米国人を総裁に据えるしかないと判断したのであろう。

 冷戦時代には、ラテンアメリカ諸国は西側陣営に組み込まれ、米国が積極的な介入を行った歴史がある。経済的ライバルでもある中国は東西冷戦期のソ連よりはるかに手強いのであるから、米中冷戦時代にモンロー主義が復活するのは自然の成り行きであるともいえよう。従って、仮にバイデンが大統領となったとしても直ちにクラベルカロネが退任することにはならず、加盟国の立場から総裁をコントロールしようとすることになる可能性もあるのではないかと思われる。

 急速に存在感が高まっている中国の経済支援には「債務の罠」的な問題もあり、支援対象国も政治的に偏りが見られるであろう。IDBの新型コロナ対策や経済支援の観点から、より適正で譲許性の高い資金供給を行う役割は、ラテンアメリカ諸国にとっても重要である。新総裁が域内諸国との融和にも努め、そのような自覚をもって取り組むことを期待したい。

  
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