朱は前出・烏坎村の抗議運動に対処した指導者で、7月3日には周永康党政法委書記も朱からの報告を聞いた。朱が語った「4つの転換」とは何か。
(1)「頭が痛ければ頭を、足が痛ければ足を治す」という「受動的維穏」から「能動的な維穏」をつくり出す「総合治療」への転換。
(2)「事後コントロール」の「静態維穏」から「(事前に)根本から管理する動態維穏」への転換。
(3)「封じ込め・圧力」を主とする「剛性維穏」から「サービス管理」を主とする「柔軟維穏」への転換。
(4)「高い沸騰を抑える運動式維穏」から「釜の下から薪を抜き取る(問題を根本的に解決する)制度的維穏」への転換。
つまり暴動・抗議を抑える際、民衆に禍根を残す暴力的手法ではなく、民衆をあまり怒らせず、柔軟に管理する手法に転換しているのだ。
こうした「維穏」を徹底するため、共産党・政府は3~6月、地方の党政法委幹部計3300人に対して研修を実施したのに続き、7月からは地方の公安局長計1400人にも研修を始めた。研修で徹底されたのが「郡県治、天下安」(地方が治まれば、天下安泰だ)という楊煥寧公安次官の指示で、朱明国も講師として呼ばれたという。
「権力VS網民」の攻防
「維穏」によって強制的につくられた「社会安定」には、暴力や言論弾圧で抑え付けられた民の怒りがマグマとして水面下に滞留している。網民(ネット市民)たちはこうした表面的な安定を「被和諧社会」(調和させられた社会)と揶揄している。
「『維穏』は崩壊する。なぜなら維穏の基本思想は、人類の進歩や社会の正義・安全に反対しているからだ。『維隠』は既に中国社会に『不安定』をもたらしている」と筆者に言い切ったのは、著名な芸術家で人権活動家でもある艾未未(アイ・ウェイウェイ)だ。
艾は昨年4月、公安当局に拘束、国家政権転覆扇動容疑で81日間にわたり調べられ、釈放された後、突如として脱税容疑を問われた。これを不服として北京市地方税務局を相手に行政訴訟を起こし、6月20日に初審理があった。
筆者はこの日、北京市朝陽区法院(裁判所)に取材に行ったが、「権力VS網民」の攻防が展開されていた。法院前には、艾の裁判を応援しようと約200人の網民が集結。彼らの影響力を知る公安は、外国人記者を現場から排除しても、網民がスマートフォンを手に現場中継するのを許している。しかしこの網民の周辺には、約200人に上る警官が目を光らせる。