2026年1月26日(月)

深層報告 熊谷徹が読み解くヨーロッパ

2026年1月26日

 米国のトランプ大統領は1月21日にダボス会議で、グリーンランドへの武力行使というオプションの放棄と欧州諸国への報復関税の撤回を表明した。だが欧州の政界・論壇では「北大西洋条約機構(NATO)は修復不可能な損害を受けた」として、核武装を含む自主防衛力の強化についての議論が始まっている。

スイス・ダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会に合わせて行われたトランプ大統領(右)とNATOのルッテ事務総長との会談(AP/アフロ)

 トランプ大統領は1月21日に「グリーンランド問題解決のための枠組みについて合意した」と発表したが、詳細は明らかにしていない。デンマーク政府とグリーンランド自治政府は、併合に反対している。

 グリーンランド関税は、欧州に対する恫喝だった。ダボス会議の前、ドイツ、フランスなど欧州諸国はデンマーク・グリーンランドとの連帯を表明し、少数の兵士たちをグリーンランドに派遣した。

 この派遣には、「米国が武力でグリーンランドを制圧しようとした場合、欧州勢と対峙する」というメッセージが込められていた。激怒したトランプは、「ドイツなど8カ国に対し、2月1日から10%、6月1日から25%の関税を科す」と発表した。

欧州は最悪の事態にも備えた

 欧州委員会のフォンデアライエン委員長や、ドイツのメルツ首相は、直ちに反論せず、エスカレーションを避け、事態の鎮静化を目指す態度を取った。

 同時に欧州連合(EU)は、関税戦争になった場合の対抗手段も準備していた。フランスのマクロン大統領は、EUに対する脅迫的な措置が取られた際に使われる「強制措置対抗ツール(ACI)」の発動を検討するべきだと発言。ACIが発動された場合、米国企業はEUの公共入札から締め出される他、EU域内への投資や特許申請などを禁止される。

 さらにEU加盟国は、米国からの輸入品930億ユーロ(16兆7400億円・1ユーロ=180円換算)に報復関税をかける可能性についても検討した。グーグルなど米国の巨大テック企業を標的にしたデジタル税も視野に入れた。

 メルツ政権でキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と連立している社会民主党(SPD)のクリングバイル共同党首は、「我々はトランプ氏が歩もうとしている道を拒否する。我々は脅迫には負けない。言葉や関税によって、我々を挑発することはできない」と述べた。

 彼が声明を出したことには、理由がある。欧州ではメルツ首相は、NATOのルッテ事務総長、イタリアのメローニ首相、フィンランドのストゥッブ大統領と並んで、トランプ氏から気に入られており、「オープンに会話ができる政治家」の一人だ。このためメルツ首相はトランプ氏を怒らせないように直ちに反論せず、連立政権のパートナーにその役割を任せた。


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