欧州独自の核抑止力についての議論
米国に対する不信感を反映して、ドイツでは欧州独自の核抑止力について、議論が行われている。
EU加盟国の中で核兵器を保有しているのは、フランスと英国だけだ。マクロン大統領は、25年3月に、条件が整えば、フランスの「核の傘」を他の欧州諸国と共有する準備があると語ったことがある。「条件が整えば」という表現は、フランスの核の傘を維持する費用について、他国が応分の負担を行うという意味だ。
当時ドイツの首相だったショルツ氏(SPD)はこの提案を黙殺した。彼はハト派として知られる。
だがSPDで安全保障問題を担当するズィームティエ・メラー議員は、ドイツの日刊紙ハンデルスブラットの1月16日付電子版とのインタビューの中で、「欧州共通の抑止力を持つ上で、フランスと英国の核戦力を、どのように使うべきかについて、真剣に話し合うべきだ」と語った。
キール大学安全保障研究所のヨアヒム・クラウゼ元所長も、「トランプが大統領である限り米国は信頼できないので、我々は欧州独自の核抑止力について、議論を行うべきだ。英仏の核戦力を大幅に増強して、ドイツなど他の欧州諸国が費用の一部を負担する代わりに、核兵器の運用についての共同発言権を持つという方式が考えられる」と、欧州独自の核シェアリングを考えるべきだという立場を打ち出している。
乱世にミドル・パワーが取るべき道
今回のダボス会議では、混沌とした闇夜に一筋の光明を投げかけるような出来事があった。
それは1月20日に、カナダのマーク・カーニー首相が行った演説である。彼は、「現在我々が世界で経験していることは、世界秩序のtransition(変化)ではなく rupture(断絶)だ。米国が先頭に立った、ルールに基づく世界秩序は戻ってこない。過去に対してノスタルジーを抱くことは、戦略ではない」と指摘した。
彼は1978年に社会主義時代のチェコスロバキアで反体制派だったヴァーツラフ・ハベル(1989年から1992年まで同国の大統領)の「無力な者の力」というエッセーを引用し、「力がない者にできること、それは現実をありのままに語ること。体制の嘘を受け入れずに嘘と言うことだ。全ての市民が、体制の嘘を名指しし、嘘を受け入れることを拒否すれば、その体制は崩壊する。今や、嘘を嘘と言うべき時がやってきた」と語った。彼はトランプ氏を名指しすることなく、彼にいつまでも盲従することの危険性を指摘した。
その上で、「大国が法律や規則を守らず、他の国々を力や金によって従属させようとしている世界で、カナダのような中規模国(ミドル・パワー)がするべきことは、現実を直視し、外交関係を多角化することだ。そのため我々は中国やカタールとも協議している。カナダは世界秩序の変化を早い時期に察知し、米国だけに頼らない国を作るために必死の努力を続けている。EUとの関係も深めている。各国がそれぞれ要塞を築くよりは、協力した方が良いに決まっている。そして我々の行動を導く指針は、人権擁護、自由、持続可能性などの価値観に基づく現実主義(value-based realism)だ。この道をカナダと一緒に歩みたいと思う国は大歓迎だ」と述べた。
