2026年1月26日(月)

深層報告 熊谷徹が読み解くヨーロッパ

2026年1月26日

 メルツ氏らは、トランプ大統領が相手を怯えさせるために強硬な発言を行っても、金融市場が過敏に反応するなどした場合に強硬策を取り下げる性格(TACO:Trump always chickens out)を知っているのだ。

「米国は欧州のために血を流さないだろう」

 だが安全保障の専門家たちは、過度の楽観を戒めている。ドイツ外交協会(DGAP)の研究所の副所長だった政治学者クリスティアン・メリング氏は、1月21日にドイツの公共放送局ARDとのインタビューの中で、「トランプ氏が態度を軟化させたのは、欧州側の反応のためではなく、共和党内でも反対意見が出たからだろう。トランプ氏は、意見を頻繁に変える。再び軍事力や関税というオプションを持ち出す可能性がある」と指摘した。

 メリング氏は、グリーンランド問題はNATOの結束を揺るがし、欧米間の亀裂を深めたと考えている。「将来欧州で有事が発生した時に、米国はワルシャワやベルリンを助けるために、米国兵士の命を危険にさらすだろうか?私はそうは思えない。したがって、欧州諸国は米国抜きで自分たちを守る態勢を作り上げなくてはならない」と語った。

 トランプ政権は、ウクライナ停戦に関する交渉の中でしばしばロシア寄りの姿勢を示しており、最悪の場合、欧州諸国は米国がウクライナ支援を停止する可能性も視野に入れなくてはならない。グリーンランドをめぐるNATOの内紛で最も喜ぶのはロシアのプーチン大統領だ。

NATOが受けた修復不可能な傷

 トランプ大統領が一時「グリーンランド併合のために武力行使も辞さない」と発言したことは、1949年に創設されたNATOが経験する最大の危機だ。

 デンマークのフレデリクセン首相は1月6日、「米国がグリーンランドを占領するために武力に訴えたら、それはNATOの終焉を意味する」と語った。欧州諸国に対し、グリーンランドに戦闘部隊を常駐させるよう求めている。

 だが欧州では、トランプ大統領の発言が同盟国の結束に与えた傷は、もはや治せないという意見が強い。ドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)は、1月21日付の紙面の社説で、「トランプ大統領は、NATOという軍事同盟の信頼性に、修復不可能な損害を与えた。NATOは、外敵からの攻撃に対して自らを防衛できるが、内部の敵による攻撃から身を守ることはできない」と指摘。「欧州は、米国に対する依存度を減らさざるをない」と警告している。

 欧州諸国は第二次トランプ政権が発足して以来、米国に対する疑念を強めていたが、グリーンランド問題で不信感は頂点に達した。トランプ大統領にとっては、米国の領土を拡張した大統領として歴史に名を残すことの方が、NATOの結束よりも重要なのだ。

 トランプ政権が昨年12月に公表した安全保障戦略の中でも、米国がロシアを封じ込めるべき敵国とは見ておらず、むしろEUと欧州諸国の現在の政権を嫌悪し、侮蔑していることが表れていた。つまり、欧州諸国にとって最も重要な「保険」である、集団的安全保障の原則(一国が攻撃された場合、他の国は自国に対する攻撃と同列に見なして、攻撃された国を支援する原則)が揺らいでいる。


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