2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年8月6日

「90年代生まれ」が先頭に

 抗議の先頭に立ったのが中学生や高校生ら1990年代生まれ「90後」が中心だったからだ。中国で社会変革に立ち上がる若者は常に敏感な存在。60年代後半の文化大革命での紅衛兵や、89年の天安門事件の際に民主化を要求した大学生ら、中国政治の激変に若者は不可欠な存在である。

 「90年代生まれの学生が政府庁舎前で請願を行い、多くの人が90年代生まれに対する見方を変えた」と評価したのは、若者に絶大な支持を得るコラムニスト韓寒だ。これに対して共産党機関紙・人民日報系の新聞「環球時報」は、かつての社会の混乱を導いた紅衛兵の教訓も引き合いに「中学生を奮い立たせて抗議活動に向かわせてはいけない」と警戒感を露わにした。

「変わる中国」と「変わらない中国」の錯綜

 一方、什邡と啓東のデモで共通するのは、民が立ち上がった当初、公安は一切手を出さず、政府もびっくりするほど素直に「決定」を覆して怒りを収めようとしたが、民がさらに暴れると、一気に武装警察を投入して暴力で鎮圧した点だ。

 啓東は上海に近く、環境汚染で不動産価格が下落することを懸念した中産階級が多く、計画中止により1日でデモは収まった。しかし什邡の方では数日間、公安や武装警察がにらみ続け、「民の勝利」という「変わる中国」という側面より、公安という上からの力により混乱を鎮める「維穏」(安定維持)という「変わらない中国」が前面に出た感は否めない。

「立ち上がる民」への共産党の対応

 今や「もの申す民」だけではなく「立ち上がる民」たち。民の動きよりもっと注目すべきなのは、「民」に対して共産党の対応がどう変わったのかという点だろう。

 微博の登場で、デモ呼び掛けがあっても、もはや完全に封じ込めることは不可能になった。今後もネットの呼び掛けでデモ隊が集まっても、その目的が昨年2月に「アラブの春」に触発され、民主化を呼び掛けた「ジャスミン革命」騒動のように反体制や倒党でなく、民の生活に関わる不満なら、一気に弾圧する強硬策を取るケースは少数派になるだろう。

 烏坎村などのケースのように以前主流を占めた「まず暴力」という強硬論では民の怒りをますます増長するだけで、社会を混乱させてしまうという教訓があるからだ。治安維持を統括する党中央政法委員会が最近、新たな「暴動対策マニュアル」を作成した可能性が高い。

「暴動対策マニュアル」の内容

 そのヒントとなるが、中央政法委機関紙「法制日報」(7月10日付)に掲載された朱明国広東省党委副書記の提言だろう。


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