2025年7月9日(水)

オトナの教養 週末の一冊

2025年6月15日

 23歳のときに刷り込まれたロマンは80代までつづくものなのか。その地が虫一匹いない火星のような土漠であっても。

チベット側から見たチョモランマ(エベレスト)(北大山の会チベット調査隊提供、以下同)

 この2月に出版された本『チベット紀行~トランスヒマラヤを巡る』(北大山の会チベット調査隊編著、同時代社)の読後、そんな疑問が浮かんだ。

 学者や元官僚ら平均年齢70歳の7人が2015年秋、チベット高原3500キロを3週間かけてかけ抜けた記録である。調査隊長の元建設省土木研究所長、住吉幸彦(84歳、敬称略、以下同)の言葉がこの地を言い表している。

 <昔よく旅をしたアフリカの草原では何処からともなく大勢の現地人が集まって来て、タイヤ交換を手助けしたりと大変賑やかになる。人の姿は見えないが何処か人の気配が濃厚に感じられる。人臭いのである>(一部筆者略、以下同)

 ところが<チベットは人口が少ない上に標高が4000~5000メートルと高く>、<蒼黒く澄んだ空に浮かぶ白雲の下、タイヤ交換の間、通り過ぎる人もなく、2~3台の車が行き交っただけだった>

 「世界一寂しい土地」で目にするのは寺院を巡る中国人観光客と、影のようにいる寡黙なチベット人労働者ぐらいだ。

 五体投地(ごたいとうち、両手・両膝・額を地面に伏して行う礼拝)をする老いたチベット女性を撮ろうとすると激しく罵られ、出されるのは四川料理ばかり。ゲギュという町でようやくチベット料理にありつき、人の良さそうな夫妻にほっとする。

チベット高原では、人と会うことはほとんどない

 <ヤクの生肉、バター茶がうまい。年ごろの娘の写真を撮ろうとすると、はにかむどころか皆の間に座って寄り添うように笑顔でポーズを取ってくれた>

 本をまとめたライター、浜名純によれば、そこは夜になればチベット女性が漢民族を接待する店のようだった。


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