2025年12月5日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2025年6月15日

景色のない大平原も地質構造は魅惑的

 <地形そのものが単調かつ巨大で、日本人の自然認識とはかけ離れ、チベット人たちの地形に対する感覚は別のようだ>と渡辺は書いている。日本人のように山河を基準に地形を見ないのなら、チベット人は何を目安にするのか。

 「湖が大きなランドマークだ。それくらいしかない」。チベット高原には琵琶湖より大きい湖もあり、調査隊は今回、塩湖、淡水湖合わせた61の湖の名前を統一し、一覧表をつくった。

 それにしても、地形が大雑把な大平原を3週間も走って楽しいのだろうか。

 地質や雪氷が専門でない浜名は「飽きるよね」と即答した。「エベレストに向かう峠に行った最初のころはヒマラヤが見えて良かったけど、あとの3週間ほぼ同じ景色だったから」

道を進んでも同じ景色だ

 それでも渡辺の目には地質構造が魅惑的に見えたという。

 <人間の時空間認識スケールを遥かに超えた叙事詩を想像する>のが一興だったと感嘆しているが、<それには地質学的知識が必要>という。

 「わかるように説明できませんか」と言うと、渡辺は時間を語り出した。

 「例えば大陸の地形を地質学的スケールで言うと億年は普通なんだ。数千万年はまあまあの古さだ。数百万年、数十万年となると、これは最近の話になる」

 地球の年齢は45億年だ。その1000分の1が450万年で、100歳まで生きた人にたとえれば、1.2カ月、36日にすぎないということらしい。

 「そのスケールで見れば、チベット高原の端のヒマラヤ山脈は一番新しい地質構造体だ。地球上の大陸は20数億年、離合集積を繰り返し、大陸集合体から分かれたゴンドワナ大陸の一部が2億数千万年前にさらにばらけて北上し、4000万年前にユーラシア大陸に衝突し下に潜り込んだ。それがヒマラヤ山脈として上昇し、その北にあったチベット高原ができた。こんな出来事は地球の歴史からすればつい最近のこと。それを人間は悠久の風景と感じるんだよ」

 「衝突」というのがわからない。じわじわとくっつくのではないか。

 「4000キロも離れた大陸が移動してきたという説が信じられるようになったのは1970年代以降なんだ。その前の『大陸漂移説』は20世紀初頭にA.ウエゲナーという人が提唱したんだが、大陸が動く仕組みがわからなかった。その後、海洋底を作る玄武岩が湧き出てプレートをつくり、それが動くという『海洋底拡大説』で大陸移動が説明できるようになったんだ。日本の周辺では北米プレートなどが日本列島の下に潜り込み、そのときの歪みで大地震が起きる。そう考えられている」

 衝突というとかなりのスピードだと思うが、「そう、1年で20センチも移動するというのは地質学的にはかなりの速さだ。こうした大衝突が数十億年の間に何度もあってチベット高原の本体が作られた」

 渡辺は熱く語るが、どうもピンとこない。


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