中国消費者の価値観変化
そのためには、まず長い目から中国の経済状況を理解する必要があるように思われる。中国は2010年代まで高い成長率を維持してきた。2000年代の年平均成長率は10.5%増である。それが2010年代には大きく低下、2011年から2019年までの年平均成長率は7.4%増、直近の2019年には6.1%増まで低下していた。
成長率が構造的に低下している、そのような認識が確実視されてきている中に生じたのが新型コロナウイルスであった。興味深いことに、新型コロナによる経済の一時的な停滞を受けても、中国の失業率は大きく悪化しなかった。
31大都市調査失業率は2020年1月の5.2%から直近のピーク時の7月に5.8%まで悪化したものの、例えば米国(3月の4.4%から4月は14.7%まで悪化、直近10月は6.9%)や日本(2月に2.3%、直近9月は3.0%まで悪化)と比べても、その悪化幅は低い。中国には他国と比較可能な月次の名目賃金のデータがないため、確定的に結論付けることは難しいが、中国の雇用市場における景気悪化時の調整は、おそらく人数ではなく、所得によってなされているのではないかと考えられる。
つまり中国の消費者にとっては、構造的な成長率の鈍化という部分に加えて、短期的な新型コロナによる影響から足元の所得期待、それに加えて、景気が多少戻ったとしても、雇用者数を維持していることから賃金を上げにくいという構造が残ることによる、将来所得の期待までも低下している可能性が高い。
その結果、これまでは、「見せること」を考えていた消費から、徐々に「堅実」な消費へと、消費行動が変わってきているのではないかと考えられる。堅実な消費と言えば、手が届かないものに無理して手を出さず、マーケティング戦略に影響され過ぎず、故障も少なく、中古で再販しても残価率が高いものが、中国消費者から要請されていると考えられるのである。
安すぎる必要はないが、手の届く範囲で、良いものを長く―それが中国消費者の行動を決定しており、その中で「日常使いの高級品」として一部の日本製品が売れているのではないか、と筆者は考えている。
筆者にとって興味深いのは、かつては「高級品の中で比較的安価」とされていたユニクロや無印良品というブランドが、現在の中国消費者にとって「手が届く良いブランド」という位置づけに代わってきたように思われることだ。「堅実」に代わってきている中国人消費者志向の中に、中国人消費者の日本ブランドに対する認識の変化も潜んでいる。それは言うまでもなく、中国の高い経済成長率による購買力の上昇と、逆に低成長を続けている日本の購買力の相対的な接近ということも示唆している。
さらに言えば、日本の若い消費者は、SNSなどを通じて発信されたファッションを韓国や中国から安く仕入れるケースが増えている。それらのファッションと比べれば、実はユニクロや無印は、普段使いだけれどやや高い、と感じることもあるようだ。