SLやまぐち号の運行経路略図と蒸気機関車の写真を包装紙にして、正方形の折箱を包む。松花堂弁当のように十字で仕切った中身は、細長く大きめな白御飯の俵飯、具で赤黄緑白の四色を描くちらしずし、白身魚フライや小魚の甘露煮、かまぼこや玉子焼にタケノコやシイタケなどの煮物。中身はちらしずしを除くと、昭和の頃の幕の内駅弁といったイメージ。お値段も含め、お手頃でお手軽なお弁当である。
1976(昭和51)年に静岡県の大井川鉄道で観光列車として復活し、国鉄時代にはこの山口線でのみ営業運転を実施していた蒸気機関車も、気が付けば北は北海道から南は熊本県まで、今は全国各地で週末の名物として踊り歌う。SLを名乗る駅弁もやはり、SL列車の数だけ存在する。容器が機関車であったり、竹炭で中身を黒く染めたり、百貨店などでの駅弁催事で人気と注目を集める特徴的な駅弁も数多い。
蒸気機関車とともに旅の印象を奏でるシンプルな駅弁
その点で、新山口駅のSL弁当は、商品名と掛紙がなければ、きわめてシンプルな弁当である。例えば写真を見るだけで食欲をそそったり、SL列車の旅を想ったりするものではない。だからこそ、心地良い。主役をあくまでもSL列車に据え、自身は脇役に徹している。汽車の旅に駅弁があるべきで、しかし駅弁は道中の食事であり、煙る車窓を眺めながら折箱をつつけるからこそ、蒸気機関車と駅弁が共に旅の印象となるのである。
山口県内の公式な駅弁販売駅は、意外にも新山口駅だけになってしまった。徳山駅弁の「あなご飯」や、下関駅弁の「ふく寿司」は、2011年4月から新山口駅の駅弁である。岩国駅の「鮎ずし」や柳井駅の「ドライカレー弁当」といった、昭和の名物駅弁も今はない。小郡から新山口へと駅名の改称にもかかわらず「小郡駅弁当」を社名とする新山口駅の駅弁屋は、山口県の駅弁をSLと共に牽引し続ける。
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